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ドキュメント駆動開発のすすめ - 設計とドキュメントを同時に進める方法

「このAPIの仕様、どこに書いてありましたっけ?」。チーム開発をしていると、こんな質問を一日に何度も耳にすることがあります。Slackを遡っても見つからない、Confluenceのどこかにあったはずだけど検索しても出てこない。そんな経験をしたことがあるエンジニアは少なくないでしょう。

実は、この問題の根本的な原因は「コードを書いた後にドキュメントを書く」という従来の開発フローにあります。コードが完成した時点で、開発者はすでに次のタスクに意識が向いています。ドキュメントは後回しにされ、気づけば誰も書かないまま月日が流れてしまうのです。ドキュメント駆動開発(Documentation-Driven Development)は、この悪循環を断ち切るためのアプローチです。

この記事では、ドキュメント駆動開発の考え方から具体的な実践方法まで、実際のプロジェクトで使えるノウハウを紹介していきます。ドキュメントを「面倒な作業」から「設計の一部」に変えることで、開発の品質そのものが変わるという話を、じっくりお伝えします。

ドキュメント駆動開発とは何か

ドキュメント駆動開発とは、コードを書く前にドキュメントを先に書く開発手法のことです。テスト駆動開発(TDD)がテストを先に書くように、ドキュメント駆動開発ではドキュメントを先に書きます。ここでいうドキュメントとは、API仕様書や設計書だけでなく、READMEやユーザー向けのガイドも含まれます。つまり、「何を作るのか」を文章として明確に定義してから、実際の実装に取りかかるということです。

この手法が生まれた背景には、ソフトウェア開発が複雑化し、チーム間のコミュニケーションコストが膨大になったという現実があります。マイクロサービス化が進み、フロントエンドとバックエンドの分業が進む中で、「お互いが何を期待しているのか」を明文化する必要性がかつてないほど高まっています。口頭でのすり合わせだけでは、どうしても認識のズレが生じてしまうのです。

そういえば、テスト駆動開発が最初に登場したときも「テストを先に書くなんて非効率だ」と言われていました。ところが実践してみると、テストファーストの方がバグが少なく、結果的に開発スピードも上がるということが分かりました。ドキュメント駆動開発にも同じことが言えます。ドキュメントを先に書くことで設計の穴が見つかり、手戻りが減り、トータルでの開発効率が上がるのです。

テスト駆動開発との関係性

ドキュメント駆動開発は、テスト駆動開発と対立するものではありません。むしろ、両者は補完関係にあります。ドキュメント駆動開発で「何を作るか」を定義し、テスト駆動開発で「正しく動くか」を保証する。この二つを組み合わせることで、仕様の明確さと実装の正確さの両方を手に入れることができます。

実際のプロジェクトでは、ドキュメントを書いた後にそのドキュメントをもとにテストケースを作成するという流れが自然に生まれます。API仕様書にリクエストとレスポンスの例が書いてあれば、そのままテストデータとして使えます。仕様書がテストの設計図にもなるわけですから、一石二鳥と言えるでしょう。

ところで、こうした手法を取り入れているチームでは、プルリクエストのレビューもスムーズに進む傾向があります。レビュアーはドキュメントを読んでから実装コードを見るので、「この変更が何のためにあるのか」を理解した上でレビューできるからです。結果として、レビューの質も上がり、チーム全体の開発力が底上げされるのです。

なぜドキュメントを先に書くべきなのか

多くのエンジニアが「ドキュメントは後で書けばいい」と考えています。しかし、この考え方にはいくつかの落とし穴があります。ここでは、ドキュメントを先に書くことのメリットを具体的に見ていきましょう。

一つ目の理由は、設計の曖昧さが早い段階で明らかになることです。コードを書いている最中は、頭の中で仕様を組み立てながら進めることができます。しかし、それを文章にしようとすると、「あれ、このケースはどう処理するんだっけ?」という疑問が次々に湧いてきます。文章にする行為そのものが、思考を整理するプロセスとして機能するのです。曖昧なまま実装を進めて後から手戻りするよりも、文章化の段階で問題を発見したほうが、はるかにコストが低いことは明白です。

二つ目の理由は、チームメンバーとの認識合わせが格段に楽になることです。「ユーザー登録APIを作ります」と言っただけでは、メンバーそれぞれが異なるイメージを持ってしまいます。ところが「POSTリクエストでメールアドレスとパスワードを受け取り、バリデーション後にユーザーレコードを作成して201を返す。メールアドレスが既存の場合は409を返す」と書いてあれば、全員が同じ理解を持てます。ドキュメントは、チームの共通言語となるのです。

三つ目の理由として、新しいメンバーのオンボーディングが劇的に改善されるという点があります。ドキュメントが充実しているプロジェクトでは、新メンバーが既存のコードベースを理解するまでの時間が大幅に短縮されます。先輩エンジニアに質問する回数も減り、教える側の負担も軽くなります。採用が活発な成長企業ほど、この効果を実感しやすいでしょう。

「ドキュメントは陳腐化する」への反論

「ドキュメントを書いても、コードの変更に追従できなくて古くなるだけだ」。ドキュメント不要論者がよく持ち出す主張です。確かに、コードの後にドキュメントを書く従来のやり方では、この指摘は的を射ています。しかし、ドキュメント駆動開発では話が違います。

ドキュメント駆動開発では、ドキュメントの更新が開発プロセスの一部として組み込まれています。仕様変更があれば、コードを変更する前にドキュメントを更新する。このルールが徹底されていれば、ドキュメントが陳腐化することはありません。実際、OpenAPIのようなAPI仕様記述フォーマットを使えば、ドキュメントとコードの整合性を自動チェックすることも可能です。

そもそも、ドキュメントが陳腐化するのは「ドキュメントを書くこと」が問題なのではなく、「ドキュメントをメンテナンスする仕組みがないこと」が問題です。CI/CDパイプラインにドキュメントの整合性チェックを組み込んだり、プルリクエストのテンプレートにドキュメント更新の確認項目を加えたりすることで、この課題は十分に解決できます。ツールと仕組みの力を借りることで、ドキュメントの鮮度を保つことは決して難しくないのです。

ドキュメント駆動開発の具体的な進め方

理念は理解できても、実際にどう進めればいいのかイメージが湧かないという方もいるでしょう。ここからは、ドキュメント駆動開発の具体的なワークフローを紹介します。

最初のステップは、実装したい機能のドキュメントを書くことです。これはAPI仕様書かもしれないし、アーキテクチャ設計書かもしれないし、ユーザー向けのガイドかもしれません。重要なのは、「この機能を使う人の視点」で書くことです。APIであれば、そのAPIを呼び出す開発者が何を知りたいかを考えます。UIコンポーネントであれば、そのコンポーネントを使う別のフロントエンド開発者が何を知りたいかを考えるのです。

ドキュメントが書けたら、チームメンバーにレビューを依頼します。ここでのレビューは、コードレビューとは異なり、「この仕様で本当にいいのか」を議論する場です。フロントエンドの開発者がバックエンドのAPI仕様書をレビューすることで、「このレスポンス形式だと画面側で扱いにくい」といったフィードバックが得られます。実装前に仕様の問題が見つかるので、手戻りのコストが最小限で済むのです。

レビューで合意が取れたら、いよいよ実装に入ります。この段階では、ドキュメントが実装のガイドラインとして機能します。「何を作るべきか」が明確なので、開発者は迷うことなくコードを書けます。実装中にドキュメントの記述と矛盾する点が見つかれば、ドキュメントを更新してからコードを修正します。この順序を守ることが、ドキュメントの鮮度を保つ鍵です。

API設計でのドキュメント駆動

ドキュメント駆動開発が最も威力を発揮するのは、API設計の場面です。REST APIやGraphQL APIを設計する際、OpenAPI(旧Swagger)やGraphQL Schemaを先に書くことで、フロントエンドとバックエンドの開発を並行して進められるようになります。

OpenAPIの仕様書があれば、バックエンドの実装が完了する前にフロントエンド開発者はモックサーバーを立てて開発を進められます。Swagger UIやRedocを使えば、仕様書からインタラクティブなドキュメントページを自動生成することも可能です。チーム全体で「APIはこう動くべきだ」という共通認識を持った上で、各自が自分の担当領域を開発するという理想的な並行開発が実現します。

実は、AmazonやStripeといった大手テック企業は、この手法を長年実践しています。Amazonは有名な「APIファーストの文化」を持ち、すべてのサービス間通信をAPIで行うことをジェフ・ベゾスが2002年の時点で義務化しました。Stripeの決済APIドキュメントが「世界で最も美しいAPIドキュメント」と称されるのも、ドキュメント駆動のアプローチを徹底しているからに他なりません。

データベース設計でのドキュメント駆動

API設計だけでなく、データベース設計でもドキュメント駆動のアプローチは有効です。ER図やテーブル定義書を先に作成し、チームでレビューしてから実際のマイグレーションファイルを書くという流れです。

テーブル定義書には、各カラムの名前、型、制約だけでなく、「なぜこのカラムが必要なのか」「どのような値が入るのか」「他テーブルとの関連はどうなっているか」といった背景情報も記述します。これがあることで、半年後に別のメンバーがこのテーブルを変更しようとしたときに、設計意図を理解した上で安全に変更を加えることができます。

ところで、dbdocsやtblsといったツールを使えば、データベースの構造からドキュメントを自動生成することも可能です。ただし、自動生成されたドキュメントには「なぜ」の情報が欠けがちです。ドキュメント駆動開発の本質は、単にドキュメントを生成することではなく、設計の意図を明文化することにあります。自動生成ツールは便利ですが、人間が書くべき部分を代替するものではないということを覚えておきましょう。

チームにドキュメント駆動開発を導入するコツ

「良い手法なのは分かったけど、チームに浸透させるのが難しそう」。そう感じる方も多いのではないでしょうか。実際、開発プロセスの変更はチームの合意と文化の変革を必要とする、なかなか骨の折れる取り組みです。ここでは、スムーズに導入するための実践的なコツを紹介します。

最も大切なのは、小さく始めることです。いきなり全プロジェクトのドキュメント駆動化を目指すのではなく、新しいAPIのエンドポイントを一つ追加するタスクから試してみましょう。「この新しいAPIの仕様を先にOpenAPIで書いてからレビューしてみませんか」という提案であれば、チームの抵抗も少ないはずです。小さな成功体験を積み重ねることで、チームの中に自然と文化が根づいていきます。

もう一つ重要なのは、ドキュメントのテンプレートを用意しておくことです。白紙の状態から書き始めるのはハードルが高いですが、テンプレートがあれば穴埋め感覚で書き始められます。API仕様書のテンプレート、設計ドキュメントのテンプレート、ADR(Architecture Decision Record)のテンプレートなど、よく使うドキュメントの雛形をリポジトリに含めておくと、誰でもすぐに書き始められる環境が整います。

そういえば、ドキュメントを書くことに対して「時間がもったいない」と感じるメンバーもいるかもしれません。その場合は、ドキュメントがなかったために発生した問題(仕様の認識ずれ、手戻り、オンボーディングの遅延など)を具体的な数字で示すと効果的です。「先月のスプリントで仕様の認識ずれによる手戻りが3件あり、合計で20時間のロスが発生した」といったデータがあれば、ドキュメントを書く時間は十分にペイするということが伝わります。

プルリクエストとドキュメントの連動

ドキュメント駆動開発を定着させるための仕組みとして、プルリクエストのプロセスにドキュメント更新を組み込む方法があります。プルリクエストのテンプレートに「関連するドキュメントを更新しましたか?」というチェックボックスを追加するだけでも、意識づけの効果は大きいです。

さらに進んだ方法として、CIパイプラインでドキュメントの整合性チェックを自動化することも考えられます。OpenAPIの仕様ファイルが変更されていないのにAPIのルーティングが変更されている場合に警告を出すといった仕組みです。GitHub Actionsやその他のCI/CDツールを使えば、こうしたチェックの自動化はそれほど難しくありません。

ドキュメントの置き場所も重要なポイントです。WikiやConfluenceのような外部ツールにドキュメントを置くと、コードとドキュメントの距離が離れてしまい、更新漏れが起きやすくなります。できるだけコードと同じリポジトリにドキュメントを置き、同じプルリクエストでコードとドキュメントを一緒にレビューできる環境を作ることをおすすめします。Docs as Codeという考え方がまさにこれで、ドキュメントもコードと同じようにバージョン管理し、レビューし、デプロイするのです。

ドキュメント駆動開発がキャリアに与える影響

ドキュメント駆動開発のスキルは、エンジニアとしてのキャリアにも大きな影響を与えます。転職市場において、「ドキュメントが書ける」というスキルは想像以上に評価が高いのです。

テックリード、アーキテクト、エンジニアリングマネージャーといったシニアポジションでは、技術的な意思決定を文書化して共有する能力が不可欠です。ADR(Architecture Decision Record)を書く習慣があるエンジニアは、なぜその技術を選んだのか、どのようなトレードオフを考慮したのかを明確に説明できます。こうした能力は、技術面接でも高く評価されるポイントです。

ところで、オープンソースプロジェクトへの貢献という観点でも、ドキュメントスキルは重要です。コードだけでなく、READMEの改善やドキュメントの翻訳といった貢献は、プロジェクトのメンテナーから非常に感謝されます。ドキュメントへの貢献をきっかけにオープンソースコミュニティとの繋がりが生まれ、それがキャリアの新たな扉を開くこともあるのです。

さらに言えば、技術ブログの執筆やカンファレンスでの登壇も、広い意味ではドキュメント駆動のスキルの延長線上にあります。自分の知見を分かりやすく文章化し、他者に伝える力を日常的に鍛えているエンジニアは、こうしたアウトプット活動にもスムーズに取り組めます。アウトプットが多いエンジニアは転職市場での認知度も高く、より良い待遇のポジションにアクセスしやすくなるという好循環が生まれます。

実践で使えるツールとフレームワーク

ドキュメント駆動開発を実践する上で、適切なツールの選択は重要です。ここでは、現場でよく使われているツールとその特徴を紹介します。

API仕様のドキュメント化には、OpenAPI(Swagger)が業界標準です。YAML形式で仕様を記述し、Swagger UIやRedocで美しいドキュメントページを自動生成できます。さらに、openapi-generatorを使えば、仕様書からクライアントコードやサーバーのスタブコードを自動生成することもできるため、ドキュメント駆動開発の恩恵を最大限に受けられます。

アーキテクチャの意思決定を記録するにはADR(Architecture Decision Record)がおすすめです。Markdown形式でシンプルに書けるため、導入のハードルが低いのが特徴です。「タイトル」「ステータス」「コンテキスト」「決定事項」「結果」というシンプルな構造で、技術的な判断の背景と理由を記録していきます。数ヶ月後に「なぜこの技術を選んだのか」を振り返りたいとき、ADRがあるかないかで理解のスピードがまったく変わります。

そういえば、最近ではNotionやHackMDのようなコラボレーションツールを設計ドキュメントの作成に使うチームも増えています。リアルタイムで共同編集ができるため、設計の議論をしながらその場でドキュメントを更新するという使い方が可能です。ただし、最終的な仕様書はリポジトリにコミットすることを忘れないでください。コードとドキュメントが同じ場所にあることが、長期的なメンテナンス性の鍵を握っています。

まとめ

ドキュメント駆動開発は、「ドキュメントを先に書く」というシンプルなルールから始まる開発手法です。その効果は、設計品質の向上、チームの認識合わせ、オンボーディングの改善、手戻りの削減と、多岐にわたります。

大切なのは、完璧なドキュメントを目指すのではなく、まず書き始めることです。最初は粗くてもかまいません。APIのエンドポイントを一つ追加するときに、仕様書を先に書いてチームに共有してみる。その小さな一歩が、チーム全体の開発プロセスを変えるきっかけになります。

コードは機械が読むために書くものですが、ドキュメントは人間が読むために書くものです。良いドキュメントを書けるエンジニアは、チームの中で自然と信頼を集め、キャリアの幅も広がっていきます。ドキュメント駆動開発を通じて、「書く力」を武器にした開発者を目指してみてはいかがでしょうか。

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