この記事のまとめ
- 技術面接でのAIツール使用は企業の方針によって異なり、事前確認が重要
- 学習や準備段階でのAI活用は推奨されるが、実際の面接では透明性を保つべき
- AIツールを使う場合は必ず使用を申告し、倫理的な姿勢を示すことが大切
ChatGPTやGitHub CopilotなどのAIツールが普及する中、エンジニアの技術面接でこれらのツールをどこまで使って良いのか悩む方も多いのではないでしょうか。
実は、AIツールの使用に関する明確なルールは企業によって大きく異なり、一概に「使って良い」「使ってはいけない」と言い切れない状況にあります。ただし、倫理的な観点から考えると、透明性を保ちながら適切に活用することが重要です。
この記事では、エンジニア転職の技術面接におけるAIツール使用の是非について、実際の企業事例や専門家の意見を交えながら詳しく解説します。AIツールを味方につけて、誠実な姿勢で転職活動を成功させるヒントをお伝えします。
技術面接でAIツールの使用は許される?業界の現状
エンジニアの技術面接におけるAIツール使用について、明確な業界標準は存在していません。しかし、企業によって大きく3つのスタンスに分かれているのが現状です。私が転職エージェントや現役エンジニアの方々から聞いた話によると、それぞれの企業文化や評価方針によって、AIツールに対する考え方は大きく異なっています。
実は最近、あるスタートアップの採用担当者から「AIツールを活用できることも技術力の一つだと考えています」という話を聞きました。一方で、大手IT企業の面接官からは「基礎的な問題解決能力を見たいので、AIツールは使わないでほしい」という意見も耳にしています。このように、企業によってAIツールに対する姿勢は様々なのです。
では、実際にどのような企業がどのようなスタンスを取っているのでしょうか。ここからは、AIツール使用に関する企業の3つの代表的なアプローチと、それぞれの背景にある考え方について詳しく見ていきましょう。
AIツール使用を明確に禁止している企業
多くの大手IT企業や伝統的な企業では、技術面接でのAIツール使用を明確に禁止しています。これらの企業では、応募者の基礎的なプログラミング能力や問題解決能力を正確に評価したいという意図があります。
例えば、ある外資系大手IT企業では、面接開始時に「今回の技術面接では、ChatGPTやGitHub Copilotなどの生成AIツールの使用はご遠慮ください」と明確に伝えられます。また、コーディングテストを実施する際は、専用のプラットフォームを使用し、外部ツールへのアクセスを制限している企業も多く存在します。
これらの企業が重視しているのは、応募者自身の思考プロセスです。エラーに直面した時にどのようにデバッグするか、効率的なアルゴリズムをどのように考えるか、といった基本的な能力を見極めたいと考えているのです。
AIツール使用を推奨・許可している企業
一方で、特にスタートアップやテック系企業の中には、AIツールの使用を積極的に推奨する企業も増えてきています。これらの企業では、「実際の業務でもAIツールを使うのだから、面接でも使って構わない」という実践的な考え方を持っています。
あるAIスタートアップの採用担当者は「私たちは、AIツールを効果的に活用できる能力も評価の対象としています。ただし、なぜそのコードを選んだのか、どのような改善を加えたのかは説明してもらいます」と話していました。実際の開発現場でAIツールが当たり前に使われるようになった今、それを使いこなせることも重要なスキルの一つだという考え方です。
このような企業では、AIツールを使って生成されたコードをそのまま提出するのではなく、それをベースに自分なりの改良を加えたり、なぜそのアプローチを選んだのかを説明できることが求められます。
条件付きで使用を認める企業
多くの企業は、上記の中間的な立場を取っています。基本的な問題解決は自力で行ってもらいたいが、特定の場面では、生産性を重視し、AIツールの使用を認めるという柔軟な対応をしています。
例えば、「基本的なアルゴリズムの実装は自力で行ってください。ただし、言語固有の構文やライブラリの使い方を調べる際は、AIツールを使っても構いません」といった具体的な指示を出す企業もあります。また、「最初の30分は自力で解いてもらい、その後はAIツールを使っても良い」という時間制限を設ける企業もあります。
このアプローチを取る企業は、応募者の基礎力とAIツール活用能力の両方を評価したいと考えています。実際の業務では両方のスキルが必要になるため、バランスの取れた評価方法だと言えるでしょう。
なぜ技術面接でAIツール使用が問題になるのか
技術面接におけるAIツール使用が議論される背景には、評価の公平性と実務能力の測定という2つの大きな課題があります。従来の技術面接では、応募者の素の実力を測ることで、入社後のパフォーマンスを予測しようとしてきました。しかし、AIツールの登場により、この前提が大きく揺らいでいるのです。
ある採用担当者から聞いた話ですが、「以前は面接で書いたコードの品質から、その人の経験レベルがある程度推測できました。でも今は、AIが生成したコードなのか、本人が書いたコードなのか判別が難しくなっています」とのことでした。このような状況が、企業側に新たな評価方法を模索させる要因となっています。
そういえば、最近参加したエンジニア向けのセミナーでも、この話題が活発に議論されていました。参加者の中には「AIツールを使いこなすスキルこそが、これからのエンジニアに必要な能力だ」という意見もあれば、「基礎的なプログラミング能力がなければ、AIが生成したコードの良し悪しも判断できない」という意見もありました。
企業が懸念する3つのポイント
企業がAIツール使用を懸念する理由は、主に以下の3つに集約されます。これらの懸念は、単なる保守的な考えではなく、実際の開発現場での経験に基づいています。
1. 基礎的な技術力の評価が困難になる AIツールを使用すると、応募者が本当に理解してプログラミングしているのか、それとも単にAIの出力をコピーしているだけなのかが分かりづらくなります。特に、アルゴリズムの理解やデータ構造の知識といった基礎的な部分の評価が難しくなるという課題があります。
2. 問題解決プロセスの観察ができない 面接官は通常、応募者がどのように問題にアプローチし、どのような思考プロセスを経て解決策に辿り着くかを観察したいと考えています。AIツールを使用すると、このプロセスがブラックボックス化してしまい、応募者の思考力や創造性を評価できなくなる可能性があります。
3. 実務での自立的な問題解決能力の判断が難しい 実際の開発現場では、AIツールが対応できない特殊な問題や、セキュリティ上の理由でAIツールを使用できない環境での作業も発生します。そのような状況で自力で問題を解決できるかどうかを、面接で見極めることが重要だと考える企業が多いのです。
AIツール容認派の主張
一方で、AIツール使用を容認する企業側の主張にも、説得力のある理由があります。これらの企業は、時代の変化に合わせた新しい評価基準の必要性を感じています。
現代の開発現場では、AIツールはもはや特別なものではなく、IDEの自動補完機能のような日常的なツールになりつつあります。そのため、「AIツールを効果的に活用できる能力」自体が、重要なスキルの一つだという考え方が広まっています。
また、AIツールを使用することで、より高度な問題解決に集中できるという利点もあります。基本的なコーディング作業をAIに任せることで、アーキテクチャ設計やビジネスロジックの検討により多くの時間を割けるようになるからです。
応募者側の視点から見た課題
応募者の立場から見ると、AIツール使用に関する明確なルールがないことが大きな不安要因となっています。「使っても良いのか悪いのか分からない」という状況では、正直に行動することが裏目に出る可能性もあります。
実際、私が話を聞いたあるエンジニアは「面接でAIツールを使ったことを正直に申告したら、評価が下がったように感じた」と話していました。一方で、別のエンジニアは「AIツールを使って効率的に問題を解決したことが評価された」という経験を持っていました。このような経験の違いが、応募者の間で混乱を生んでいるのです。
倫理的にAIツールを活用する方法
技術面接におけるAIツール使用について、最も重要なのは「透明性」と「誠実さ」です。AIツールを使うこと自体が悪いわけではありません。問題は、それを隠したり、自分の能力を偽ったりすることにあります。
私がこれまで多くのエンジニアや採用担当者と話してきた中で感じたのは、誠実な姿勢で臨む応募者は、AIツールの使用有無に関わらず良い評価を得ているということです。ある面接官は「AIツールを使ったことを正直に申告し、なぜそのアプローチを選んだのかを論理的に説明してくれた応募者がいました。その誠実さと思考力を高く評価しました」と話していました。
では、具体的にどのようにAIツールと付き合えば良いのでしょうか。ここからは、面接の各段階における倫理的なAIツール活用方法について、実践的なアドバイスをお伝えします。
面接前の準備段階でのAI活用
面接準備の段階では、AIツールを積極的に活用することをお勧めします。この段階でのAI活用は、学習効率を高め、より深い理解につながるからです。
学習ツールとしての活用 ChatGPTやClaudeなどのAIツールは、優秀な学習パートナーになります。例えば、アルゴリズムの概念を理解したい時、AIに「クイックソートを5歳児にも分かるように説明して」と聞くことで、新しい視点から理解を深めることができます。また、自分が書いたコードのレビューを依頼することで、改善点を発見することもできます。
面接対策としての活用 よく出題される技術問題の傾向を分析したり、回答例を参考にしたりすることも有効です。ただし、AIが生成した回答を丸暗記するのではなく、なぜそのような解法になるのかを理解することが重要です。理解せずに暗記しただけでは、少し問題が変わった時に対応できなくなってしまいます。
模擬面接での活用 AIを面接官役として、模擬面接を行うこともできます。「Reactのライフサイクルについて説明してください」といった質問を投げかけてもらい、自分の理解度をチェックすることができます。
面接当日の対応方法
面接当日は、企業の方針を確認し、それに従うことが最も重要です。以下のような対応を心がけましょう。
1. 事前確認を怠らない 面接開始前に、必ず「今回の技術面接でAIツールの使用は可能でしょうか?」と確認しましょう。この質問をすること自体が、あなたの誠実さを示すことになります。
2. 使用する場合は必ず申告する もしAIツールの使用が許可された場合でも、使用する際は「今からChatGPTを使って構文を確認させていただきます」のように、明確に申告しましょう。
3. AIの出力をそのまま使わない AIが生成したコードをそのまま提出するのではなく、必ず自分で理解し、必要に応じて修正を加えましょう。そして、なぜその修正を加えたのかを説明できるようにしておくことが大切です。
面接後のフォローアップ
面接が終わった後も、誠実な対応を続けることが重要です。もし面接中にAIツールを使用した場合は、お礼メールの中でその旨を改めて伝え、使用した理由や学んだことを共有するのも良いでしょう。
例えば、「本日の面接では、ご許可いただいた上でAIツールを活用させていただきました。特定のライブラリの使い方を確認する際に使用しましたが、問題の本質的な解決方法は自分で考えました。このような実践的な開発スタイルを評価いただければ幸いです」といった形で伝えることができます。
実際の企業事例:AIツール使用に関するポリシー
ここでは、実際の企業がどのようなスタンスでAIツール使用に臨んでいるか、具体的な事例を紹介します。企業名は伏せますが、これらは実際に私が転職エージェントや現役エンジニアから聞いた話に基づいています。
事例1:大手外資系IT企業A社
A社では、技術面接でのAIツール使用を完全に禁止しています。面接は専用のオンラインプラットフォームで実施され、画面共有とカメラは常にオンにすることが求められます。
面接官によると、「私たちは応募者の raw coding ability(素のコーディング能力)を見たいのです。AIツールは便利ですが、基礎がしっかりしていないエンジニアは、複雑な問題に直面した時に対応できません」とのことでした。
ただし、A社では入社後の業務ではAIツールの使用を推奨しており、社内でAIツール活用のベストプラクティスを共有する取り組みも行っているそうです。
事例2:AIスタートアップB社
B社は、AIツールの使用を積極的に推奨している企業の代表例です。面接では「普段の開発環境と同じようにAIツールを使ってください」と伝えられます。
B社のCTOは「私たちが見たいのは、AIツールを使いこなす能力と、生成されたコードを批判的に評価できる能力です。AIが出力したコードの問題点を指摘し、改善できるエンジニアこそが、これからの時代に必要な人材だと考えています」と話していました。
実際の面接では、AIツールで生成したコードについて、なぜそのアプローチを選んだのか、どこを改善したのか、といった説明が求められるそうです。
事例3:国内大手IT企業C社
C社は、条件付きでAIツール使用を認めるという中間的なアプローチを取っています。基本的なアルゴリズム問題は自力で解くことが求められますが、実装の詳細部分ではAIツールの使用が許可されています。
面接官は「例えば、二分探索のアルゴリズムを実装する問題では、基本的な考え方は自分で書いてもらいます。ただし、言語固有の構文やエラーハンドリングの部分では、AIツールを参考にしても構いません」と説明していました。
このアプローチにより、応募者の基礎的な理解度と実践的な開発能力の両方を評価できるとのことです。
事例4:Web系メガベンチャーD社
D社では、面接の形式によってAIツール使用のルールを変えています。ライブコーディング形式の面接では使用禁止ですが、宿題形式のコーディングテストでは使用を認めています。
「宿題形式の場合、実際の業務により近い環境で評価したいので、AIツールの使用も含めて自由にしています。ただし、提出時にはAIツールをどのように活用したかを明記してもらいます」と採用担当者は説明していました。
これらの事例から学べること
これらの事例を見ると、企業によってAIツール使用に対する考え方が大きく異なることが分かります。しかし、共通しているのは以下の点です:
- 透明性を重視している:AIツールを使用する場合は、それを明確にすることが求められる
- 理解度を確認している:AIツールを使っても、その出力を理解し説明できることが重要
- 実務を意識している:実際の開発現場でどのように働くかを評価基準にしている
転職活動をする際は、応募する企業がどのようなスタンスを取っているかを事前に調べ、それに合わせた準備をすることが大切です。
AIツール使用に関するよくある質問
技術面接でのAIツール使用について、応募者からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。これらは実際に転職相談を受けた際に聞かれた内容を基にしています。
Q1: AIツールを使ったことを隠した場合、バレることはありますか?
正直なところ、バレる可能性は高いです。経験豊富な面接官は、AIが生成したコードの特徴を見抜くことができます。例えば、不自然に洗練されたコード、一般的でない変数名の使用、問題に対して過度に複雑な解法などは、AIツール使用のサインとして認識されることがあります。
さらに重要なのは、コードについて質問された時に適切に答えられないと、すぐに疑われてしまうということです。「なぜこのアプローチを選んだのですか?」「この部分の時間計算量は?」といった質問に答えられないと、自分で書いていないことが明らかになってしまいます。
Q2: 事前にAIツール使用について聞くのは印象が悪くないですか?
むしろ、事前に確認することは誠実さの表れとして好印象を与えることが多いです。「今回の技術面接では、AIツールの使用は可能でしょうか?普段の開発ではGitHub Copilotを活用していますが、面接では御社の方針に従います」といった形で聞くと良いでしょう。
この質問をすることで、あなたが普段からAIツールを活用していること、そして企業のルールを尊重する姿勢があることの両方をアピールできます。
Q3: AIツールが使えない環境での対策はどうすればいいですか?
AIツールが使えない環境での面接に備えて、以下の準備をお勧めします:
基礎的なアルゴリズムの復習 二分探索、ソート、グラフ探索などの基本的なアルゴリズムは、AIツールなしでも書けるようにしておきましょう。LeetCodeやHackerRankなどのプラットフォームで、AIツールを使わずに練習することが効果的です。
言語固有の構文の暗記 よく使う言語の基本的な構文は覚えておきましょう。例えば、Pythonのリスト内包表記、JavaScriptのPromise、Javaのストリーム APIなどです。
ホワイトボードコーディングの練習 実際に紙やホワイトボードにコードを書く練習をしておくと、オンライン面接でも落ち着いて対応できます。
Q4: AIツールを使った場合、どこまで正直に説明すべきですか?
使用したAIツールとその使用方法について、具体的かつ正直に説明することが重要です。例えば:
「このソート処理の部分で、最初にChatGPTにクイックソートの実装を聞きました。しかし、生成されたコードでは pivot の選び方が効率的でなかったので、median-of-three 法に変更しました。また、小さな配列に対しては挿入ソートに切り替えるハイブリッドアプローチを採用しました」
このように、AIツールをどう使い、どのように改善したかを具体的に説明することで、あなたの技術力と判断力をアピールできます。
Q5: 将来的にAIツール使用は当たり前になりますか?
多くの専門家は、AIツールの使用が今後ますます一般的になると予測しています。実際、すでに多くの開発現場でGitHub CopilotやChatGPTが日常的に使われています。
しかし、だからといって基礎的なプログラミング能力が不要になるわけではありません。むしろ、AIツールを効果的に活用するためには、より深い技術的理解が必要になると考えられています。AIが生成したコードの良し悪しを判断し、適切に修正・改善できる能力が、これからのエンジニアには求められるでしょう。
まとめ
エンジニアの技術面接におけるAIツール使用は、企業によって方針が大きく異なり、統一された基準がないのが現状です。しかし、どのような状況においても「透明性」と「誠実さ」を保つことが最も重要です。
AIツールを使用する場合は必ず事前に確認し、使用時は申告すること。そして、AIが生成したコードを理解し、説明できる能力を身につけることが求められます。これからの時代、AIツールを効果的に活用できることは重要なスキルの一つですが、同時に基礎的なプログラミング能力も疎かにしてはいけません。
転職活動においては、応募する企業のスタンスを事前に調べ、それに合わせた準備をすることが成功への近道です。そして何より、自分の能力に自信を持ち、誠実な姿勢で臨むことが、理想の転職を実現する鍵となるでしょう。
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