この記事のまとめ
- MLOpsエンジニアはML基盤の構築・運用を担う専門職で、年収600万〜1200万円の高水準
- データサイエンティスト、インフラエンジニア、バックエンドエンジニアからの転職ルートが一般的
- Kubernetes、CI/CD、MLフレームワークの実践経験が転職市場での評価を大きく左右する
「機械学習のモデルは作れるけど、本番環境にデプロイして安定的に運用するのは別の話だよね」。データサイエンティストの間でこんな会話を耳にすることが増えてきました。実は、この「モデル開発と本番運用のギャップ」を埋める専門職がMLOpsエンジニアであり、いま転職市場で急速に需要が高まっている職種なのです。
MLOpsエンジニアは、機械学習のモデルを開発環境から本番環境へとスムーズに移行させ、安定的に運用するための基盤を構築・運用する役割を担います。この記事では、MLOpsエンジニアへの転職を検討している方に向けて、求められるスキル、年収の相場感、そして異なるバックグラウンドからの転職ルートを具体的に解説していきます。
MLOpsエンジニアとは何をする仕事なのか
MLOpsという言葉は「Machine Learning」と「Operations」を掛け合わせた造語で、DevOpsの考え方を機械学習の世界に適用したものです。ソフトウェア開発においてDevOpsが開発と運用の壁を取り払ったように、MLOpsはデータサイエンスとITインフラの間にある壁を解消することを目指しています。
日々の業務内容は組織によって多少異なりますが、共通するのは「機械学習モデルのライフサイクル全体を効率化する」という目的です。具体的には、データパイプラインの構築、モデルの学習・評価の自動化、モデルのデプロイ基盤の構築と運用、本番環境でのモデル監視、再学習パイプラインの設計といった業務が中心になります。
ソフトウェアエンジニアリングの確かなスキルとインフラの知識を持ちながら、機械学習の仕組みも理解しているという、いわばハイブリッドな専門性が求められる職種です。だからこそ人材が不足しており、転職市場では引く手あまたの状態が続いています。多くの企業が「データサイエンティストは採用できたけど、モデルを本番に載せる人がいない」という課題を抱えているのが現状です。
データサイエンティストとの役割の違い
MLOpsエンジニアとデータサイエンティストは密接に連携する職種ですが、その焦点は大きく異なります。データサイエンティストがモデルの精度向上や新しいアルゴリズムの探求に注力するのに対し、MLOpsエンジニアはそのモデルを信頼性高く本番環境で動かすための仕組みづくりに専念します。
わかりやすい例えで言えば、データサイエンティストが「料理の腕を磨くシェフ」だとすると、MLOpsエンジニアは「厨房の設計と運営を担うマネージャー」のような存在です。どんなに美味しい料理を作れても、効率的な厨房がなければ大量のお客さんにサービスを提供できません。同様に、どんなに精度の高いモデルでも、安定したデプロイ基盤がなければビジネスに貢献できないのです。
この役割分担を理解しておくことは、転職面接でも非常に重要です。「データサイエンティストとしてモデルを作りたい」のか「モデルを本番で動かすための基盤を作りたい」のかを明確に説明できると、面接官にMLOpsエンジニアとしての意欲と理解度をアピールできます。
MLOpsエンジニアに求められるスキルセット
MLOpsエンジニアのスキルセットは幅広いですが、すべてを深く極める必要はありません。重要なのは、各分野の基本を理解した上で、いくつかの得意分野を持つことです。転職市場で特に評価されるスキルを整理すると、大きく3つの領域に分けられます。
ソフトウェアエンジニアリングの基礎は、MLOpsエンジニアにとって最も重要なスキルです。PythonやGoなどのプログラミング言語の実務経験、Gitを使ったバージョン管理、テスト自動化、CI/CDパイプラインの構築経験が求められます。機械学習の文脈に限定されず、一般的なソフトウェア開発のベストプラクティスを実践できることが基本条件です。
インフラ・クラウドの知識も欠かせません。KubernetesやDockerを使ったコンテナ技術、AWS、GCP、Azureといったクラウドサービスの実務経験、Terraformなどを使ったInfrastructure as Code(IaC)の実践が重要視されます。特にKubernetesはMLワークロードの実行基盤として広く使われているため、KubeflowやKServeなどのML関連ツールを扱えるスキルがあると、転職時に大きな武器になります。
機械学習の基礎知識も当然必要です。ただし、データサイエンティストと同じレベルの深さは求められていません。「モデルの学習がどのように行われるのか」「モデルの精度をどう評価するのか」「データドリフトとは何か」といった概念を理解していれば十分です。MLflowやKubeflowなどのMLOps専用ツールの使用経験があると、実践的なスキルをアピールできます。
実務経験をどうアピールするか
転職市場では、資格よりも実務経験が重視される傾向が強いです。しかし、MLOpsエンジニアとしての直接的な実務経験がない場合でも、隣接する領域の経験を効果的にアピールする方法があります。
たとえば、インフラエンジニアとしてCI/CDパイプラインを構築した経験は、MLパイプラインの構築にそのまま応用できます。バックエンドエンジニアとしてAPIを設計・運用した経験は、モデルの推論エンドポイントの構築に活かせます。データサイエンティストとしてモデルを開発した経験は、ML特有の課題(データドリフト、特徴量管理など)を理解しているという点でアドバンテージになります。
転職準備として個人プロジェクトでMLOpsの実践経験を積むことも有効です。たとえば、MLflowを使った実験管理基盤の構築、GitHub ActionsでのMLモデルのCI/CDパイプライン構築、Kubernetesへのモデルデプロイなどを個人の学習プロジェクトとして行い、GitHubに公開しておけば、面接時の具体的なアピール材料になります。
年収の相場と待遇
MLOpsエンジニアの年収は、一般的なソフトウェアエンジニアと比較して高い水準にあります。これは需要に対して供給が圧倒的に不足していることの表れです。経験やスキルレベル、勤務地域によって幅がありますが、日本国内の相場感を見ていきましょう。
経験3年未満のジュニアレベルでは、年収600万〜800万円程度が一般的です。MLOpsとしての直接経験は少なくても、ソフトウェアエンジニアリングやインフラの実務経験があれば、このレンジでスタートできることが多いです。経験3〜5年のミドルレベルになると、年収800万〜1000万円程度に上がります。MLパイプラインの設計・構築をリードした経験があると、この層での評価が高くなります。
シニアレベル(経験5年以上)では、年収1000万〜1200万円以上も珍しくありません。チームのテックリードやアーキテクトとして、組織全体のMLOps戦略を主導できる人材に対しては、さらに高い報酬が提示されるケースもあります。外資系テック企業やメガベンチャーでは、株式報酬を含めた総報酬がさらに高額になることもあります。
年収交渉のポイント
転職時の年収交渉では、自分のスキルセットがどれだけ市場で希少性があるかを客観的に示すことが重要です。MLOpsエンジニアの場合、Kubernetesの実務経験、MLパイプラインの構築経験、特定のクラウドプロバイダーでのML基盤構築経験など、具体的なスキルを列挙できると交渉力が高まります。
転職エージェントを活用するのも効果的な方法です。MLOps分野に詳しいエージェントであれば、市場の相場感を正確に把握しており、適切な年収レンジでのマッチングを行ってくれます。特にこの分野では、スキルの希少性が高い割に市場の情報が少ないため、エージェントの知見が年収交渉で大きな差を生むことがあります。
複数の企業から同時にオファーを受けることも、年収交渉を有利に進めるための現実的な戦略です。ただし、年収だけでなく、仕事内容、チームの技術力、成長機会といった要素も総合的に考慮することをおすすめします。高い年収を提示する企業が必ずしも最良の環境であるとは限りません。
バックグラウンド別の転職ルート
MLOpsエンジニアへの転職ルートは、現在の職種によって異なります。それぞれのバックグラウンドが持つ強みと、補完すべきスキルを把握しておくと、効率的なキャリアチェンジが可能になります。
データサイエンティストからの転職は、最も自然なルートのひとつです。すでにML分野の知識を持っているため、インフラ寄りのスキル(Kubernetes、Docker、CI/CD)を習得することに集中できます。本番環境でのモデル運用の課題を肌で感じている方は、その経験自体が大きなアドバンテージになります。「自分が作ったモデルを自分でデプロイして運用したい」というモチベーションがあれば、面接でも説得力のあるストーリーを語れるでしょう。
インフラエンジニアやSREからの転職も有力なルートです。Kubernetes、Terraform、監視ツールなどのインフラスキルはMLOpsでもそのまま活かせます。追加で必要なのは、機械学習の基礎知識とMLOps専用ツール(MLflow、Kubeflowなど)の使い方です。インフラの安定運用という観点を持ち込める点は、組織にとって非常に価値のある貢献です。
バックエンドエンジニアからの転職では、ソフトウェア設計力とAPI開発の経験が武器になります。モデルの推論エンドポイントの設計や、データパイプラインのバックエンド構築において、その経験が直接的に活きます。クラウドインフラとMLの基礎知識を追加で習得することで、MLOpsエンジニアとしての幅が広がるでしょう。
未経験からの転職は可能か
エンジニア経験はあるがML関連の経験がまったくないという方でも、MLOpsエンジニアへの転職は可能です。ただし、段階的なアプローチが必要になります。いきなりMLOpsエンジニアのポジションに応募するのではなく、まず現在の職種の中でML関連のプロジェクトに携わる機会を作ることが近道です。
たとえば、バックエンドエンジニアであれば、社内のデータサイエンスチームと連携してモデルのAPI化を担当する、といった形でML関連の実務経験を少しずつ積んでいく方法があります。同時に、個人のプロジェクトでMLflowやKubeflowを使った学習を進め、ポートフォリオとしてGitHubに公開しておくとよいでしょう。
転職市場では「MLOps」というタイトルのポジションだけでなく、「ML Platform Engineer」「ML Infrastructure Engineer」「Data Platform Engineer」といった名称で求人が出ていることも多いです。求人サイトでこれらのキーワードでも検索してみると、より多くの選択肢が見つかるはずです。
転職活動の具体的な進め方
MLOpsエンジニアとして転職を成功させるためには、準備と戦略が重要です。一般的なエンジニア転職と共通する部分もありますが、MLOps特有のポイントもいくつかあります。
ポートフォリオの準備は最も重要なステップです。GitHubリポジトリに、MLパイプラインの構築例やMLflowを使った実験管理基盤のサンプルを公開しておくと、技術力をダイレクトにアピールできます。コードの品質やドキュメンテーションの丁寧さも評価の対象になるため、ReadMeの充実やテストの網羅も意識しましょう。
面接対策としては、システム設計面接の準備が欠かせません。「レコメンドモデルの本番デプロイ基盤を設計してください」「データドリフトを検知する仕組みを設計してください」といった問題が出されることが多いです。アーキテクチャの選定理由を論理的に説明できること、スケーラビリティと可用性のトレードオフを議論できることが重要になります。
転職エージェントの活用も積極的に検討してください。MLOpsは比較的新しい職種のため、求人が一般的な転職サイトに掲載されていないケースも少なくありません。IT・テック系に特化したエージェントであれば、非公開求人を含めた幅広い選択肢から最適なポジションを紹介してくれるでしょう。
まとめ
MLOpsエンジニアは、機械学習が実ビジネスに浸透するなかで急速に需要が高まっている職種です。高い年収水準と将来性を考えると、エンジニアとしてのキャリアを一段引き上げるための魅力的な選択肢と言えるでしょう。
どのバックグラウンドからでもMLOpsエンジニアへの転職は可能ですが、自分の強みを活かしたアプローチを取ることが成功の近道です。データサイエンティストはインフラスキルを、インフラエンジニアはML基礎を、バックエンドエンジニアはクラウドとMLの知識をそれぞれ補強することで、効率的にキャリアチェンジを実現できます。
転職市場でのMLOps人材の不足は当面続くと見られており、今がまさに参入の好機です。この記事を参考に、具体的な準備を始めてみてください。