この記事のまとめ
- オンコール対応経験は、SRE・DevOps分野で高く評価される貴重なスキル
- 適切な転職戦略により、オンコール負担を軽減しながら年収1400万円以上を実現可能
- 障害対応経験を体系化し、インシデント管理やポストモーテム文化構築のスキルとしてアピールすることが重要
深夜2時、スマートフォンのアラートが鳴り響き、緊急障害対応のため起き上がる。このような経験を持つオンコールエンジニアの方は少なくないでしょう。24時間365日システムの安定稼働を支える重要な役割を担いながらも、プライベートの時間が侵食され、精神的・肉体的な負担に悩む方も多いのが現実です。
しかし、実はオンコール対応の経験は、適切にアピールすることで転職市場で非常に高く評価される貴重なスキルセットなのです。私がこれまでサポートしてきたエンジニアの中には、オンコール経験を武器に、より良い労働環境と年収1400万円以上を実現した方が何人もいらっしゃいます。
この記事では、オンコールエンジニアとしての経験を最大限に活かし、ワークライフバランスを改善しながらキャリアアップを実現する具体的な転職戦略をご紹介します。
オンコールエンジニアの市場価値が急上昇している理由
現代のIT業界において、システムの24時間365日稼働は当たり前になっています。特にEC、金融、ヘルスケア、SaaSなど、わずかなダウンタイムが大きな損失につながる業界では、オンコール体制の構築が急務となっています。
そういえば、先日お話しした大手SaaS企業の採用担当者も「オンコール経験があり、かつそれを体系的に改善できるエンジニアは本当に貴重」と話していました。単にアラートに対応するだけでなく、障害の根本原因を分析し、再発防止策を講じ、オンコール負担そのものを軽減する仕組みを作れる人材が求められているのです。
実際、オンコール経験を持つエンジニアは、以下のような高度なスキルを身につけています。まず、プレッシャー下での冷静な判断力と問題解決能力。深夜の障害対応では、限られた情報から迅速に原因を特定し、影響を最小限に抑える判断が求められます。次に、システム全体を俯瞰する視野の広さ。アプリケーション層からインフラ層まで、幅広い知識と経験が必要となります。そして、効果的なコミュニケーション能力。関係各所への連絡、エスカレーション、事後報告など、技術力だけでなく対人スキルも磨かれます。
オンコール経験が評価される職種と年収相場
オンコール経験を活かせる職種は、想像以上に幅広く存在します。それぞれの職種で求められるスキルセットと年収相場を詳しく見ていきましょう。
SRE（Site Reliability Engineer）
SREは、Googleが提唱した職種で、システムの信頼性向上を専門とするエンジニアです。オンコール経験者にとって最も自然なキャリアパスと言えるでしょう。
SREとして求められるのは、単なる障害対応スキルだけではありません。SLO（Service Level Objective）の設定、エラーバジェットの管理、トイルの自動化など、システムの信頼性を科学的にアプローチする能力が必要です。オンコール経験者は、実際の障害対応を通じてシステムの弱点を熟知しているため、より実践的なSLO設定が可能です。
年収相場は経験年数や企業規模により異なりますが、一般的に800万円から1600万円程度。特に外資系企業やメガベンチャーでは、シニアSREポジションで2000万円を超えるケースも珍しくありません。
DevOpsエンジニア
DevOpsエンジニアは、開発と運用の橋渡し役として、CI/CDパイプラインの構築や自動化を推進する職種です。オンコール経験者は、運用視点での課題を深く理解しているため、より実践的なDevOps環境を構築できます。
例えば、デプロイ時の障害を最小化するためのカナリアリリースやブルーグリーン・デプロイメントの設計、障害発生時の自動ロールバック機能の実装など、オンコール対応で培った知見が直接活かせます。また、監視・アラート設計においても、誤検知を減らし、本当に重要なアラートだけを通知する仕組みを作ることができます。
年収相場は700万円から1400万円程度。インフラのコード化（IaC）やKubernetes運用経験があれば、さらに高い評価を得られるでしょう。
クラウドアーキテクト
クラウドアーキテクトは、AWS、Azure、GCPなどのクラウド環境でのシステム設計を専門とする職種です。オンコール経験者は、実際の障害パターンを熟知しているため、より堅牢なアーキテクチャを設計できます。
マルチリージョン構成による可用性向上、オートスケーリングによる負荷分散、サーキットブレーカーパターンによる障害の局所化など、オンコール対応で学んだ教訓を設計に反映させることができます。また、コスト最適化の観点からも、過剰な冗長性を避けつつ、必要十分な可用性を確保するバランス感覚が評価されます。
年収相場は900万円から1500万円程度。クラウドベンダーの上位資格（AWS Solutions Architect Professional、Google Cloud Professional Cloud Architectなど）を取得すれば、さらなる年収アップが期待できます。
オンコール負担を軽減できる企業の見極め方
転職を考える際、最も重要なのは「オンコール負担が適切に管理されている企業」を見極めることです。高年収だけを追い求めて、結果的に以前よりも過酷な環境に身を置いては本末転倒です。
面接で確認すべきポイント
面接では、以下の質問を通じて企業のオンコール文化を把握しましょう。まず「オンコールローテーションの頻度と期間」について聞いてみてください。理想的な企業では、チーム全体でローテーションを組み、一人あたり月1-2回程度、1回につき1週間程度の担当となっています。
次に「オンコール手当の有無と金額」も重要です。適切な企業では、待機手当（スタンバイ料）と実際の対応手当が明確に定められています。一般的には、待機で日額5,000円から10,000円、実際の対応で時間あたり5,000円から15,000円程度が相場です。
「エスカレーション体制」についても必ず確認しましょう。一次対応者がすべてを解決する必要はなく、適切にエスカレーションできる体制が整っているかが重要です。また「ポストモーテム文化」の有無も、企業の成熟度を測る良い指標となります。
企業文化の見極め方
オンコール負担が適切に管理されている企業には、共通する特徴があります。まず、エンジニアリング組織全体でオンコールの負担を分散させる仕組みがあること。開発チームと運用チームが分断されておらず、「You build it, you run it」の原則が浸透している企業は、オンコール品質も高い傾向にあります。
また、障害を個人の責任にしない文化も重要です。「Blameless Postmortem（非難なき事後検証）」を実践し、システムとプロセスの改善に焦点を当てている企業は、心理的安全性が高く、長期的に働きやすい環境と言えるでしょう。
技術的な観点では、カオスエンジニアリングやSREプラクティスを導入している企業は、プロアクティブに障害を防ぐ文化があり、結果的にオンコール負担も軽減される傾向にあります。
転職活動でアピールすべきオンコール関連スキル
オンコール経験を効果的にアピールするには、単に「オンコール対応をしていました」では不十分です。具体的な実績と改善事例を数値とともに示すことが重要です。
インシデント対応スキルの体系化
まず、これまでの障害対応経験を体系的に整理しましょう。対応した障害の種類（アプリケーション障害、インフラ障害、外部サービス障害など）、影響範囲（ユーザー数、売上影響額など）、復旧時間（MTTR: Mean Time To Recovery）を具体的に記録します。
例えば、「月間10件程度のインシデントに対応し、平均復旧時間を120分から45分に短縮」といった具体的な成果は高く評価されます。また、重大障害の対応経験があれば、その際の判断プロセスや対応手順を時系列でまとめておくと、面接での説得力が増します。
改善提案と実装経験
オンコール経験者として最も価値があるのは、「同じ障害を二度と起こさない」ための改善提案と実装経験です。例えば、以下のような実績があれば積極的にアピールしましょう。
監視・アラートの最適化に関しては、誤検知率の削減、アラートの集約・相関分析の導入、ランブックの整備と自動化などが挙げられます。具体的に「アラートの誤検知率を80%から20%に削減し、深夜の不要な呼び出しを月15回から3回に減少させた」といった数値があると説得力が増します。
自動復旧機能の実装経験も高く評価されます。自動再起動スクリプト、リソース枯渇時の自動スケールアウト、データベースのフェイルオーバー自動化など、人的介入を減らす取り組みは、企業にとって大きな価値となります。
ソフトスキルのアピール
オンコール対応で培われるソフトスキルも、忘れずにアピールしましょう。プレッシャー下での冷静な判断力、ステークホルダーへの的確な状況報告能力、チーム間の調整力など、これらは管理職やリードエンジニアへのキャリアパスでも重要な要素となります。
特に、インシデント対応中のコミュニケーション能力は重要です。技術的な内容を非技術者にも分かりやすく説明し、適切な期待値調整を行える能力は、シニアポジションでは必須のスキルとなります。
オンコールエンジニアのための転職準備チェックリスト
転職活動を始める前に、以下の準備を整えておくことで、より効果的なアピールが可能になります。
技術スキルの棚卸し
まず、現在のスキルセットを客観的に評価しましょう。プログラミング言語（Python、Go、Ruby等）、インフラ技術（Docker、Kubernetes、Terraform等）、クラウドサービス（AWS、GCP、Azure）、監視ツール（Datadog、New Relic、Prometheus等）について、それぞれのレベルを明確にします。
不足しているスキルがあれば、転職活動と並行して学習を進めることをお勧めします。特に、Infrastructure as Code（IaC）やコンテナ技術は、現代のSRE/DevOpsエンジニアにとって必須スキルとなっています。
ポートフォリオの作成
GitHubでの技術的な貢献を可視化することも重要です。オープンソースプロジェクトへの貢献、自作の監視ツールやオペレーションツールの公開、技術ブログでの情報発信など、積極的にアウトプットしましょう。
特に、オンコール対応で得た知見を技術記事としてまとめることは、知識の整理にもなり、採用担当者へのアピールにもなります。「深夜障害を50%削減した監視設計のベストプラクティス」といった実践的な内容は、多くの企業から注目を集めるでしょう。
資格取得の検討
時間に余裕があれば、関連資格の取得も検討しましょう。AWS Certified DevOps Engineer、Google Cloud Professional Cloud DevOps Engineer、Certified Kubernetes Administrator（CKA）などは、技術力の客観的な証明となります。
ただし、資格取得に時間をかけすぎるよりも、実務経験のアピールに注力することをお勧めします。資格はあくまでも補助的な要素と考え、実績ベースでの訴求を心がけましょう。
まとめ：オンコール経験を武器にキャリアアップを実現しよう
オンコールエンジニアとしての経験は、決して「つらい仕事」で終わらせるべきではありません。その経験は、システムの安定性を支える高度なスキルセットとして、転職市場で高く評価されます。
重要なのは、これまでの経験を体系的に整理し、具体的な成果として示すこと。そして、より良い労働環境を提供する企業を見極め、戦略的に転職活動を進めることです。適切な企業選びと効果的なアピールにより、オンコール負担を軽減しながら年収1400万円以上を実現することは十分可能です。
あなたのオンコール経験は、次のキャリアステップへの貴重な資産です。この記事で紹介した戦略を参考に、より充実したエンジニアライフを実現してください。障害対応の最前線で培った知識と経験は、必ずあなたの市場価値を高め、理想のキャリアへと導いてくれるはずです。