エンジニアとしてレガシーコードと格闘してきた経験は、実は転職市場で非常に価値の高いスキルだということをご存知でしょうか。「リファクタリングなんて地味な作業だし、アピールできるような華やかな実績じゃない」と考えている方も多いかもしれません。
しかし、技術的負債の解消は多くの企業が抱える深刻な課題であり、この分野のスペシャリストを求める声は年々高まっています。私自身、転職エージェントとして数多くのエンジニアの方々をサポートしてきましたが、リファクタリング経験を適切にアピールできた方は、想定以上の好条件でオファーを獲得されています。
本記事では、レガシーコードのリファクタリング経験を転職活動で最大限に活かすための戦略的なアピール方法について、具体的な事例を交えながら詳しく解説していきます。
なぜリファクタリング経験が転職市場で高く評価されるのか
多くの企業では、事業の成長とともに蓄積されたレガシーコードが開発速度の低下やバグの温床となっています。特に創業から10年以上経過した企業では、初期の急速な成長期に書かれたコードが技術的負債として重くのしかかっているケースが少なくありません。こうした状況下で、リファクタリングを通じて技術的負債を解消できるエンジニアは、まさに救世主のような存在として認識されています。
実際、私が最近お手伝いした転職案件では、リファクタリング専門のポジションで年収1200万円という破格のオファーが出されました。この企業は、数年間放置されていたレガシーシステムの改善に着手しようとしており、実績のあるエンジニアを切実に求めていたのです。
さらに興味深いのは、リファクタリング経験者に対する評価が単なる技術力だけにとどまらない点です。レガシーコードの改善には、既存システムへの深い理解、チームメンバーとの調整力、段階的な改善計画の立案能力など、総合的なエンジニアリング力が求められます。これらの能力は、将来的にテックリードやアーキテクトといった上位ポジションを目指す上でも非常に重要な要素となります。
リファクタリング経験を効果的にアピールする5つのポイント
1. 定量的な成果を明確に示す
リファクタリング経験をアピールする際に最も重要なのは、具体的な数値で成果を示すことです。「コードをきれいにしました」という抽象的な表現では、面接官に価値が伝わりません。
例えば、あるエンジニアの方は次のような形で実績をアピールされていました。「5年間放置されていた決済システムのリファクタリングを主導し、コードの可読性向上により新機能の開発速度を従来の3倍に改善しました。具体的には、1機能あたりの開発期間が平均3週間から1週間に短縮され、年間で約2,000万円の開発コスト削減に貢献しました」
このように、ビジネスインパクトまで含めて説明することで、技術的な改善が経営にどのような価値をもたらしたかが明確に伝わります。単にコードの行数が減ったとか、循環的複雑度が下がったという技術的指標だけでなく、それがビジネスにどう貢献したかを説明することが重要です。
2. 困難だった課題と解決プロセスを物語として語る
リファクタリングプロジェクトには必ず困難な局面があります。その困難をどのように乗り越えたかを、ストーリーとして語ることで、あなたの問題解決能力と粘り強さをアピールできます。
実際にあった成功事例をご紹介しましょう。ある方は、10年以上前に書かれたPHPのレガシーコードをモダンなアーキテクチャに移行するプロジェクトを担当されていました。最大の課題は、ドキュメントが一切存在せず、元の開発者も既に退職していたことでした。
この方は、まずコードリーディングに2週間を費やし、システムの全体像を把握することから始めました。次に、既存の動作を保証するためのテストコードを書き、安全にリファクタリングできる環境を整備しました。そして、段階的にコードを改善していき、最終的には保守性の高いシステムへと生まれ変わらせることに成功したのです。
このプロセスを面接で詳細に説明することで、技術力だけでなく、計画性や忍耐力、リスク管理能力なども同時にアピールすることができました。
3. チームへの影響と知識共有の実績を強調する
リファクタリングは個人プレーではありません。チーム全体の生産性向上にどのように貢献したかを説明することで、協調性やリーダーシップもアピールできます。
優秀なエンジニアの方々は、リファクタリングの過程で得た知見を積極的にチームに共有しています。例えば、「リファクタリング完了後、学んだベストプラクティスをまとめた社内勉強会を開催し、20名以上のエンジニアに知識を共有しました。その結果、チーム全体のコード品質が向上し、レビュー時の指摘事項が前年比で60%減少しました」といった具合です。
また、リファクタリングガイドラインの作成や、自動化ツールの導入なども重要なアピールポイントになります。個人の成果だけでなく、組織全体への波及効果を意識して説明することで、より高い評価を得ることができるでしょう。
4. 使用した技術とツールを具体的に列挙する
リファクタリングで使用した技術やツールを具体的に挙げることで、あなたの技術的な引き出しの多さをアピールできます。単に「リファクタリングしました」では、どの程度の技術力があるのか判断できません。
例えば、以下のような形で具体的に説明すると効果的です。「静的解析ツールとしてSonarQubeを導入し、技術的負債を可視化しました。また、段階的なリファクタリングを実現するため、Feature Toggleを活用して新旧のコードを並行稼働させる仕組みを構築しました。デザインパターンとしては、既存のGod Classをリポジトリパターンとサービス層に分離し、責務を明確化しました」
このように具体的なツール名や技術名を挙げることで、実務経験の豊富さと技術への理解度の深さを同時にアピールすることができます。
5. 今後のキャリアビジョンとの関連性を示す
最後に、リファクタリング経験を今後のキャリアにどう活かしていきたいかを明確に伝えることが重要です。単に過去の実績を語るだけでなく、将来への展望を示すことで、採用企業にとってのあなたの価値がより明確になります。
「これまでのリファクタリング経験を活かし、貴社の技術的負債解消に貢献したいと考えています。特に、レガシーシステムのマイクロサービス化に興味があり、段階的な移行戦略の立案から実装まで携わりたいです」といった形で、具体的な貢献イメージを伝えることができれば、採用担当者の印象に強く残るでしょう。
職務経歴書でリファクタリング経験を効果的に記載する方法
職務経歴書にリファクタリング経験を記載する際は、プロジェクトごとに以下の要素を含めることをお勧めします。
プロジェクト概要では、対象システムの規模感と課題を明確に記載します。例えば「月間1000万PVのECサイトの決済システム(コード行数:10万行)において、5年間の技術的負債により新機能開発が困難になっていた状況を改善」といった具合です。
実施内容については、具体的な改善手法を列挙します。「MVCアーキテクチャへの移行」「単体テストカバレッジを0%から80%へ向上」「CI/CDパイプラインの構築」など、技術的な取り組みを具体的に記載しましょう。
成果・実績の部分では、前述の通り定量的な成果を必ず含めます。開発速度の向上、バグ発生率の低下、運用コストの削減など、ビジネスインパクトを数値で表現することが重要です。
使用技術については、プログラミング言語、フレームワーク、ツール、手法などを網羅的に記載します。これにより、あなたの技術的なスキルセットが一目で分かるようになります。
面接でリファクタリング経験を語る際の注意点
面接でリファクタリング経験について質問された際、技術的な詳細に偏りすぎないよう注意が必要です。面接官の技術レベルはさまざまであり、あまりに専門的な話をしすぎると、かえってコミュニケーション能力に疑問を持たれる可能性があります。
まず、概要を分かりやすく説明し、面接官の反応を見ながら技術的な深さを調整していくことが大切です。「簡単に言うと、散らかった部屋を整理整頓して、誰でも必要なものがすぐに見つけられる状態にしたようなものです」といった比喩を使うのも効果的です。
また、失敗談も積極的に共有することをお勧めします。「最初は一気に全てを書き換えようとして失敗し、段階的なアプローチの重要性を学びました」といった経験談は、あなたの成長過程を示す良い材料となります。
リファクタリング経験者が狙うべき転職先
リファクタリング経験を最大限に活かせる転職先としては、以下のような企業が挙げられます。
成長期のスタートアップ企業は、急速な成長に伴い技術的負債が蓄積されているケースが多く、リファクタリング経験者を積極的に採用しています。特に、シリーズB以降の資金調達を完了し、スケールアップフェーズに入った企業では、システムの安定性向上が急務となっているため、高待遇でのオファーが期待できます。
大手企業の基幹システム刷新プロジェクトも狙い目です。金融機関や流通業など、レガシーシステムを抱える大企業では、DX推進の一環として大規模なリファクタリングプロジェクトが進行しています。こうしたプロジェクトでは、経験豊富なリファクタリングエンジニアが求められており、年収1500万円を超えるオファーも珍しくありません。
SIerからの転職を考えている方には、モダナイゼーションサービスを提供するコンサルティングファームもお勧めです。クライアント企業のレガシーシステム改善を支援する立場として、幅広い業界・技術に触れることができ、キャリアの幅を広げることができます。
まとめ
リファクタリング経験は、転職市場において非常に価値の高いスキルです。技術的負債の解消は多くの企業にとって喫緊の課題であり、この分野の専門性を持つエンジニアは引く手あまたの状況にあります。
重要なのは、単なる「コードの整理」としてではなく、ビジネス価値の創出という観点からリファクタリング経験をアピールすることです。定量的な成果、困難を乗り越えたプロセス、チームへの貢献、使用技術の具体性、そして将来のビジョンを明確に伝えることで、あなたの市場価値は大きく向上するでしょう。
レガシーコードとの格闘は決して華やかな仕事ではありませんが、その経験は確実にあなたのキャリアの武器となります。ぜひ本記事を参考に、リファクタリング経験を戦略的にアピールし、理想の転職を実現してください。