技術面接を受けていると、「それ、聞いたことすらないんですけど」という質問に遭遇する場面が必ずやってきます。事前にどれだけ準備をしても、技術の世界はあまりにも広く、すべてをカバーすることは物理的に不可能です。CRDTの内部実装について聞かれたり、分散合意アルゴリズムの詳細を問われたり、自分の専門領域とはまったく異なるトピックが飛んできたときの焦りは、経験した人にしかわからないものがあります。
そういえば、面接官が「知らない分野の質問」をあえて投げるケースは実はかなり多いのです。これは意地悪でやっているのではなく、受験者が未知の問題にどう向き合うかを見たいから。エンジニアの仕事では、知らない技術に出会う機会は日常的にあります。そのたびにフリーズしてしまう人よりも、手持ちの知識を活用しながら前に進もうとする人のほうが、チームにとって頼もしい存在なのは間違いありません。
この記事では、知らない質問に直面したときの具体的な対処法をお伝えします。沈黙してしまう代わりに、自分の価値を示す方法はたくさんあります。知識のない状態からでも面接官に好印象を残すテクニックを身につければ、技術面接への恐怖心はかなり和らぐはずです。
「知らない」と正直に伝えることの戦略的価値
正直さが信頼を生む理由
知らない質問に対して最も避けるべきなのは、知ったかぶりをすることです。面接官の多くは現役のエンジニアであり、その分野の専門家です。曖昧な知識で取り繕おうとすると、すぐに見破られてしまいます。見破られた瞬間に失うのは、その質問の評点だけではありません。あなたという人間への信頼そのものが損なわれるのです。
「その分野は詳しくないのですが」と正直に前置きすることは、一見マイナスに思えるかもしれません。しかし実際には、この一言があなたの他の回答すべてに信頼性を付与するのです。面接官は「この人は知っていることと知らないことを正確に区別できる」と判断します。技術の世界では、自分の知識の境界線を正確に把握していることは、極めて重要なスキルとして評価されます。
知らないことを認めた上で、「ただ、関連する経験から考えると」と続ければ、正直さと前向きさを同時に示すことができます。これは面接での一つの局面に限った話ではなく、チーム開発においても同様です。わからないことをわからないと言える人は、問題を隠蔽せずにチームに共有できる人であり、重大な障害を未然に防げる人です。面接官はそうした資質を見ているのです。
正直に伝えるときの具体的なフレーズ集
「わかりません」の一言で終わらせてしまうと、面接はそこで止まってしまいます。大切なのは、知らないという事実を伝えつつ、そこから会話を前に進めるフレーズを持っておくことです。
「その技術については実務で扱った経験がありません。ただ、似た目的を持つ技術としてはXXを使ったことがあるので、その観点から考えてみてもよろしいでしょうか」。このフレーズは、知らない技術を知っている技術に橋渡しする方法です。面接官にとっても、受験者の思考のプロセスを追えるので評価しやすくなります。
「その分野の詳細は把握していないのですが、一般的な設計原則から推測すると、おそらくこういう目的で使われるものではないかと思います。的外れかもしれませんが、考えを述べてもよろしいですか」。この言い方のポイントは、推測であることを明示している点です。面接官は「この人は自分の発言の確度を区別できる」と受け取ります。また、「的外れかもしれませんが」という但し書きは、間違っていた場合の保険にもなります。
「正直に申し上げると、その用語を初めて聞きました。差し支えなければ、簡単に概要を教えていただくことは可能でしょうか。お聞きした上で、自分の知識との関連を考えてみたいです」。これは最も率直なアプローチですが、学習意欲の高さを印象づける効果があります。面接官によっては喜んで説明してくれることもあり、そこからの対話で高い評価を得られるケースも珍しくありません。
知らない質問を既知の領域に引き寄せるテクニック
アナロジー思考で橋を架ける
知らない技術や概念について聞かれたとき、最も強力なテクニックは「自分が知っている類似のものに結びつける」ことです。技術の世界では、異なる名前がついていても根本的な原理が共通しているものがたくさんあります。この共通点を見つけ出すアナロジー思考は、エンジニアの実務能力を直接的に反映するスキルでもあります。
たとえば、「Kafkaのパーティショニングの仕組み」について聞かれたとしましょう。Kafkaを使った経験がなくても、データベースのシャーディングや負荷分散のラウンドロビンなど、類似の概念を知っているかもしれません。「Kafkaの詳細は把握していませんが、データの分散処理という観点では、データベースのシャーディングと似た考え方ではないでしょうか。特定のキーに基づいてデータを振り分けることで、並列処理を可能にする仕組みだと推測します」。このように答えれば、Kafka固有の知識はなくても、分散システムの基本概念を理解していることが伝わります。
アナロジー思考を鍛えるには、普段から「この技術の根本的な目的は何か」を意識する習慣が役立ちます。コンテナ技術なら「環境の隔離と再現性」、CI/CDパイプラインなら「品質保証の自動化」、マイクロサービスなら「関心の分離と独立デプロイ」。技術の名前ではなく、解決しようとしている問題に注目することで、知らない技術に出会っても「これはあの問題を解決するためのものだ」と推測できるようになります。
第一原理に立ち返る方法
アナロジーが見つからないほど未知の領域の質問を受けた場合は、さらに基礎的な原理まで立ち返ります。コンピューターサイエンスの基礎原理は、どんな先端技術の底にも存在しています。どんなに複雑なシステムも、計算、記憶、通信という3つの基本要素の組み合わせで成り立っています。
「その技術の詳細は存じませんが、システム設計の一般原則として考えると、トレードオフの観点が重要になるかと思います。パフォーマンスと一貫性、あるいはレイテンシーとスループットの間にどういったトレードオフがあるかという視点で、このテーマについて考えてみたいと思います」。こうした回答は、特定の技術の知識ではなく、エンジニアリングの思考フレームワークを持っていることを示します。
CAP定理やSOLID原則、あるいはOSのプロセス管理やメモリ管理の基本といった、広く適用可能な基礎知識は、未知の質問に対するセーフティネットとして機能します。面接前にこうした基礎概念を復習しておくことは、個別の技術を丸暗記するよりもはるかに汎用性の高い準備になるのです。応用が効くという点で、基礎にこそ最大のリターンがあります。
知識がなくても評価される回答の組み立て方
問題分析のフレームワークを使う
知らない質問に対しても、構造化された思考プロセスを見せることで評価を得られます。面接官は正解を聞きたいのではなく、あなたがどう考えるのかを見たいからです。そこで役立つのが、問題分析のフレームワークです。
「まず問題の定義を明確にさせてください」から始めるのは、あらゆる技術的質問に使える万能の出だしです。知っている技術の質問でも知らない技術の質問でも、問題を正しく定義することは解決の第一歩です。「何を解決しようとしているのか」「制約条件は何か」「期待されるアウトプットはどういう形か」。こうした問いかけを面接官にぶつけることで、問題の輪郭がはっきりしてきます。
問題の定義ができたら、解決のアプローチを複数提示します。「思いつく方法が3つあります。1つ目は...、2つ目は...、3つ目は...。それぞれにトレードオフがあると考えますが、この状況であれば1つ目のアプローチが最も適切かもしれません」。このように複数案を提示し、そこから選択する理由を述べる形式は、たとえ知識が不十分であっても、思考の質が高いことを示せます。面接官は「この人と一緒に技術的な議論をしたい」と感じてくれる可能性が高まります。
質問を掘り下げて情報を引き出す
面接は一方通行の試験ではなく、双方向のコミュニケーションです。知らない質問に対して、適切な質問を返すことも立派な対処法になります。面接官に追加の情報を求めることは、実務でのコミュニケーション能力を示すことにもなるのです。
「その質問について、もう少し具体的な状況を教えていただけますか。たとえば、システムの規模感や、優先すべき品質特性があれば、より的確な回答ができるかと思います」。このような質問は、あなたが問題を深く理解しようとしていることを示します。曖昧な問題に対して闇雲に答えるのではなく、前提条件を確認してから取り組むのは、経験豊富なエンジニアの振る舞いそのものです。
質問を投げかけるときに注意したいのは、質問攻めにならないことです。面接官にとって、受験者から延々と質問される状況は居心地が悪いものです。質問は1つか2つに絞り、得られた情報をもとに自分なりの考えを述べるというサイクルを回すのが理想的です。「教えていただいた条件を踏まえると、こういうアプローチが考えられると思いますが、いかがでしょうか」。この形で面接官を議論に巻き込むことができれば、知識の有無に関係なく、質の高い技術的対話が成立します。
分野別の「知らない質問」への対応戦略
アルゴリズムとデータ構造の質問
アルゴリズムの質問で知らないデータ構造やテクニックが登場した場合、基本データ構造の組み合わせで考えるのが有効です。トライ木を知らなくても、配列とハッシュマップの知識があれば、文字列の効率的な検索という問題に対して何らかのアプローチを提案できます。「最適な解法は思いつきませんが、ブルートフォースアプローチならこう書けます。そこからの最適化ポイントを考えてみます」という進め方は、面接官に好印象を与えるパターンの一つです。
計算量の分析も、知らないアルゴリズムに遭遇したときの武器になります。「具体的なアルゴリズムは思いつきませんが、この問題の下限を考えると、少なくともO(n)は必要です。なぜなら全要素を一度は確認する必要があるからです。理想的にはO(n log n)程度で解けるのではないかと推測します」。このような分析は、アルゴリズムの知識がなくても計算理論の素養があることを示せます。
動的計画法やグラフアルゴリズムなど、特定のパラダイムに馴染みがない場合は、自分が得意な手法で部分的にでも解くことを優先します。完璧な解を出せなくても、問題を小さく分解し、一部でも解けることを示すことが重要です。面接は満点を取る試験ではなく、あなたの思考能力を見せる場なのです。
システム設計の質問
システム設計の面接で未経験の技術スタックが登場した場合、抽象度を一段上げて考えるのが効果的です。「Cassandraの具体的な運用経験はありませんが、分散データベースに求められる特性として、書き込みのスケーラビリティと結果整合性のバランスが重要だと理解しています。その観点で設計を進めてよろしいでしょうか」。こうすることで、特定の製品知識ではなく、アーキテクチャの原理原則を理解していることを示せます。
設計問題では、知らない技術があっても「ここにキャッシュ層を入れる」「ここでメッセージキューを使う」といった抽象的なコンポーネントで議論を進められます。具体的な製品名を出す必要はなく、そのコンポーネントに求められる特性(低レイテンシー、高可用性、順序保証など)を議論できれば十分です。面接官は製品名の暗記力ではなく、適切なコンポーネントを適切な場所に配置する判断力を見ています。
スケーラビリティやフォールトトレランスの話題で未知の概念に遭遇した場合、「単一障害点をなくす」「ステートレスにする」「水平スケーリングを可能にする」といった基本原則に立ち返ると、議論を前に進められます。これらの原則は特定の技術に依存しないため、どんな設計問題にも適用可能です。
面接前の準備で「知らない質問」を減らす
効率的な知識カバレッジの広げ方
知らない質問に対処するテクニックを身につけることは重要ですが、そもそも知らない質問に遭遇する確率を下げる準備も同時に進めるべきです。ただし、技術の全領域を深く学ぶことは不可能なので、「広く浅く」の戦略が必要になります。
応募先企業の技術スタックを調べ、それに関連する技術領域を洗い出すことが出発点です。企業のテックブログ、求人票の技術要件、GitHubのパブリックリポジトリなどから、面接で問われそうな技術のリストを作れます。そのリストの各項目について、「何の問題を解決するためのものか」「主な特徴は何か」「類似技術との違いは何か」の3点だけを押さえておけば、完全に知らない状態は回避できます。
技術系のポッドキャストやニュースレターを定期的にチェックする習慣も効果的です。深い理解は不要で、「そういう技術が存在する」「こういう文脈で使われている」というレベルの認識があるだけで、面接での反応が大きく変わります。「詳しくはないですが、XXの文脈で名前を聞いたことがあります。確か、YYの問題を解決するためのアプローチだったと記憶しています」。この程度の知識でも、まったく知らない状態とは天と地の差があるのです。
知らないことを認める勇気を事前に育てる
技術面接で知らない質問に出会ったときの最大の障壁は、知識の不足そのものではなく、「知らないと言ったら不合格になる」という恐怖です。この恐怖を事前に和らげておくことも、重要な準備の一つです。
模擬面接で意図的に「絶対に答えられない質問」を出してもらう練習をしてみてください。量子コンピューティングの技術面接を受けるわけでもないのに、量子ゲートの仕組みを聞かれるような、完全に専門外の質問です。こうした質問に対して「わかりません。ただ...」と自然に返答できるようになるまで繰り返し練習するのです。知らないことを認める発言を声に出して練習することで、本番での心理的ハードルが劇的に下がります。
面接を受ける前に、自分の技術的な強みと弱みを明確に整理しておくことも効果的です。「フロントエンドはReactを中心に3年の経験がある。バックエンドはNode.jsの基本的な経験。インフラはほぼ未経験」のように、自分の知識マップを言語化しておくと、面接中に知らない質問が来ても動揺しにくくなります。「自分の知識の境界線」をあらかじめ認識しておくことで、想定外の質問が想定内に変わるのです。
まとめ
技術面接で知らない質問に遭遇することは、避けられない現実です。しかし、知らないこと自体が不合格の理由になることは少なく、知らない状況にどう対処したかが本当の評価ポイントになります。正直に「知りません」と伝えた上で、自分の知っている領域から橋を架けていく姿勢は、面接官にとって非常に魅力的に映ります。
アナロジー思考、第一原理への回帰、問題分析フレームワークの活用など、知識がなくても使えるテクニックは複数存在します。これらを事前に練習しておけば、未知の質問に対しても沈黙ではなく対話で応じることができるようになるのです。面接官はあなたの知識量を測っているのではなく、一緒に働いたときの問題解決能力を見極めようとしています。
日常的に技術の幅を広げる習慣をつけつつ、「知らない」と言える勇気を育てること。この2つが揃えば、技術面接で知らない質問に出会っても、もはや恐れる必要はありません。あなたの思考プロセスそのものが、最も価値のある回答なのです。