「この関数、どんな引数を渡せばいいんだろう」「このクラスの使い方がわからない」。チーム開発をしていると、他の人が書いたコードの仕様を確認したい場面が毎日のようにあります。Slackで質問すれば解決するかもしれませんが、相手の作業を中断させてしまいますし、同じ質問が繰り返されるのは誰にとっても非効率です。
そんな課題を解決してくれるのがTypeDocです。TypeScriptのソースコードからAPIドキュメントを自動的に生成してくれるツールで、コードに書いたコメントがそのまま美しいHTMLドキュメントに変換されます。一度セットアップしてしまえば、あとはコメントを書くだけで常に最新のドキュメントが手に入ります。
この記事では、TypeDocのインストールから設定、実践的なカスタマイズまで、段階を追って丁寧に解説します。TypeScript初心者の方でも手を動かしながら進められる内容にしていますので、記事を読み終わる頃にはあなたのプロジェクトにも立派なAPIリファレンスが完成しているはずです。
TypeDocとは何か - ツールの全体像を理解する
TypeDocは、TypeScript向けに設計されたドキュメント生成ツールです。TypeScriptコンパイラの型解析エンジンと連携して動作するため、ソースコードから型情報を正確に抽出し、構造化されたドキュメントを出力できます。2014年にリリースされてから着実にユーザーを増やし、現在ではTypeScriptプロジェクトのデファクトスタンダードとも呼べるドキュメント生成ツールになりました。
TypeDocの大きな特徴は、追加の設定をほとんど必要としないシンプルさにあります。npmパッケージをインストールしてコマンドを実行するだけで、クラス、インターフェース、関数、列挙型といったTypeScriptの要素がカテゴリ別に整理されたドキュメントが出力されます。JSDocコメントが記述されていれば、その説明文もドキュメントに反映されるので、既存のプロジェクトにも導入しやすいのです。
出力されるドキュメントは単なるテキストの羅列ではなく、型の相互参照やソースコードへのリンクが自動的に付与されます。あるインターフェースのプロパティに別のインターフェースの型が使われている場合、クリック一つでその定義に飛べるようになっているのです。こうしたナビゲーション機能のおかげで、複雑な型の依存関係も直感的に追えるようになります。
TypeDocのインストールと初期設定
TypeDocを使い始めるのはとても簡単です。Node.jsとnpmがインストールされている環境であれば、ターミナルでたった一つのコマンドを実行するだけでセットアップが完了します。すでにTypeScriptプロジェクトが存在している前提で、実際の導入手順を見ていきましょう。
プロジェクトのルートディレクトリでnpm install typedoc --save-devを実行すると、開発依存関係としてTypeDocがインストールされます。TypeDoc 0.25以降ではTypeScript 4.6以上が必要なので、TypeScriptのバージョンが古い場合は先にアップデートしておいてください。インストールが完了したら、npx typedoc src/index.tsのようにエントリポイントを指定して実行すれば、docsディレクトリにHTMLファイルが生成されます。
ところで、エントリポイントの指定方法にはいくつかのパターンがあります。単一ファイルを指定する場合はファイルパスをそのまま渡しますが、複数のエントリポイントがある場合はスペース区切りで列挙するか、ワイルドカードを使うこともできます。モノレポ構成のプロジェクトでは、各パッケージのindex.tsをそれぞれエントリポイントとして指定するのが一般的です。
typedoc.jsonで細かい設定を行う
コマンドラインオプションだけでも基本的な運用はできますが、プロジェクトが成長してくると設定ファイルでの管理が便利になります。プロジェクトルートにtypedoc.jsonを配置すれば、ビルドのたびに同じオプションを指定する手間が省けます。
設定ファイルの中身はJSON形式で、よく使うオプションとしてはentryPoints、out、excludeなどがあります。entryPointsには解析対象のファイルやディレクトリを配列で指定し、outには出力先のパスを設定します。excludeにはドキュメントに含めたくないファイルのパターンを正規表現で記述できるため、テストファイルやユーティリティスクリプトを除外するのに便利です。
tsconfig.jsonの設定をTypeDocに引き継ぐことも可能です。tsConfigFilePathオプションでtsconfig.jsonのパスを指定すると、コンパイラオプションやパスエイリアスの設定がTypeDocにも適用されます。これにより、TypeScriptコンパイラとTypeDocで設定が食い違う問題を防げます。
package.jsonにスクリプトを追加する
日常的にTypeDocを使うなら、package.jsonのscriptsセクションにコマンドを登録しておくと便利です。"docs": "typedoc"のように短いエイリアスを設定しておけば、npm run docsだけでドキュメントが生成されます。設定ファイルを用意してあれば、追加のオプション指定も不要です。
開発中にドキュメントをリアルタイムでプレビューしたい場合は、watchモードの設定も検討しましょう。TypeDoc自体にはwatchモードがありませんが、nodemonやchokidarを組み合わせることで、ソースコードの変更を検知して自動的にドキュメントを再生成する仕組みを構築できます。ローカル開発時にはhttp-serverなどで生成されたHTMLを配信すれば、ブラウザで常に最新のドキュメントを確認できます。
チームの全員が同じコマンドでドキュメントを生成できるようにしておくことは、ドキュメント文化を根付かせるうえで重要な一歩です。セットアップの手順をREADMEに書いておけば、新しいメンバーがジョインした際にもスムーズにドキュメント生成環境を整えられます。
JSDocコメントの書き方とTypeDocでの活用
TypeDocはソースコードの型情報を自動的に抽出しますが、関数の目的や引数の意味、使い方の例といった人間にとって重要な情報は、JSDocコメントとして記述する必要があります。ここでは、TypeDocで効果的に表示されるJSDocコメントの書き方を紹介します。
JSDocコメントは/**で始まり*/で終わるブロックコメントの形式で記述します。関数やクラスの直前に配置すると、TypeDocがそのコメントを対象要素の説明として認識します。最初の段落は要約として扱われ、ドキュメントの一覧ページに表示されるため、簡潔で分かりやすい文章を心がけましょう。
実は、コメントの書き方一つでドキュメントの見栄えが大きく変わります。段落を空行で区切れば読みやすい構造になりますし、@remarksタグを使えば詳細な解説を要約と分離できます。コードの意図や設計上の判断理由を記述しておくと、将来のメンテナンスが格段に楽になるのです。
よく使うJSDocタグ一覧
TypeDocが認識するJSDocタグは数多くありますが、日常的に使うものは限られています。@paramタグは関数の引数を説明するためのもので、引数名の後に説明文を記述します。TypeScriptでは型情報はコード自体で定義されているため、JSDocの型指定部分は省略して説明文だけを書くのが一般的です。
@returnsタグは戻り値の説明に使います。型情報はTypeScriptの戻り値型から自動的に取得されるので、ここでも型の記述は不要です。代わりに、どのような条件でどのような値が返されるのかを説明することに集中してください。エラーが発生する可能性がある場合は@throwsタグで例外の種類と発生条件を記載しておくと親切です。
@exampleタグは使い方を示すコードサンプルを記述する場所です。このタグの中に書いたコードブロックは、ドキュメント上で整形されて表示されます。実際に動作するサンプルコードを載せておけば、ドキュメントを読んだ人がすぐに使い方を理解できるので、積極的に活用することをおすすめします。
クラスとインターフェースのドキュメント化
クラスをドキュメント化する場合、クラス宣言の直前にJSDocコメントを配置します。クラスの概要だけでなく、どのような場面で使うのか、他のクラスとの関係性はどうなっているのかといった情報を記述しておくと、利用者にとって非常に参考になります。TypeDocはクラスの継承関係を自動的に解析して図示してくれるので、型の構造を視覚的に把握できるのも魅力です。
インターフェースのドキュメント化も同様の手順で行えます。インターフェースのプロパティ一つ一つにJSDocコメントを付けることで、各フィールドの意味や制約条件を明示できます。オプショナルなプロパティについては、デフォルト値や省略時の挙動を記載しておくと、利用者が正しく設定を行えるようになります。
ジェネリック型を持つクラスやインターフェースでは、型パラメータの説明も忘れずに記述しましょう。@typeParamタグを使えば、各型パラメータが何を表しているのかをドキュメント上で明確に伝えられます。型パラメータ名だけでは伝わりにくい制約条件やユースケースを補足することで、ドキュメントの実用性が大きく向上します。
テーマのカスタマイズとプラグイン活用
TypeDocのデフォルトテーマはシンプルで見やすいデザインですが、プロジェクトのブランディングに合わせてカスタマイズしたくなることもあるでしょう。TypeDocはテーマシステムとプラグインアーキテクチャを備えており、出力の見た目や振る舞いを柔軟に変更できます。
テーマの変更は設定ファイルのthemeオプションで行います。デフォルトテーマ以外にも、コミュニティが作成した多彩なテーマがnpmパッケージとして公開されています。ダークモード対応のテーマや、サイドバーのナビゲーションが強化されたテーマなど、プロジェクトの特性に合ったものを選べるのがうれしいところです。
プラグインを使えば、さらに高度なカスタマイズが可能になります。たとえば、typedoc-plugin-markdownを導入すると、HTML形式ではなくMarkdown形式でドキュメントが出力されるようになります。この出力をVitePressやDocusaurusなどのドキュメントサイトジェネレーターに取り込めば、APIリファレンスをプロジェクトのドキュメントサイトにシームレスに統合できるのです。
カスタムテーマの作成方法
既存のテーマでは要件を満たせない場合、自分でカスタムテーマを作成することも可能です。TypeDocのテーマはRendererクラスを拡張して作成します。テンプレートエンジンとしてはHandlebarsに似た仕組みが使われており、HTMLのテンプレートとCSSを組み合わせてレイアウトを定義します。
カスタムテーマの開発はやや上級者向けですが、デフォルトテーマのソースコードが良い参考資料になります。ロゴの追加やフッターの変更程度であれば、デフォルトテーマを少し修正するだけで済む場合も多いです。変更箇所が少ないならCSSのオーバーライドだけで対応できるケースもあるので、まずは簡単な方法から試してみてください。
テーマの完成度が高ければ、npmパッケージとして公開してコミュニティに貢献することもできます。自分のプロジェクトで培ったノウハウを共有することは、エンジニアとしての発信力を高める良い機会です。オープンソースの世界では、こうした小さな貢献が思わぬつながりを生むこともあります。
CI/CDパイプラインへの統合
TypeDocを導入したら、CI/CDパイプラインに組み込んで自動化するのが次のステップです。手動でコマンドを実行してドキュメントを更新するフローは、どうしても更新忘れが発生してしまうため、コードの変更と同時にドキュメントも更新される仕組みを作っておくのが理想的です。
GitHub Actionsを使った自動化が最も手軽な方法です。ワークフローファイルにNode.jsのセットアップとTypeDocの実行コマンドを記述し、mainブランチへのプッシュやプルリクエストのマージをトリガーに設定します。生成されたドキュメントをGitHub Pagesにデプロイすれば、常に最新の状態が公開されます。
ドキュメントの品質を担保するために、プルリクエストの段階でドキュメント生成のテストを行うことも効果的です。TypeDocの実行で警告やエラーが出た場合にCIを失敗させる設定にしておけば、JSDocコメントの記述漏れや不正なフォーマットを早期に検出できます。コードレビューの前にこうした自動チェックを通すことで、レビューの負荷を軽減できるのです。
GitHub Pagesへのデプロイ設定
GitHub Pagesへのデプロイは、gh-pagesブランチを使う方法とGitHub Actionsのartifactsを使う方法の2通りがあります。gh-pagesブランチを使う方法は設定が簡単で、gh-pagesというnpmパッケージを利用すれば数行のスクリプトでデプロイが完了します。一方、GitHub Actionsのartifactsを使う方法は、リポジトリにドキュメントのコミットが混ざらないというメリットがあります。
デプロイの際に注意したいのは、ドキュメントのベースパスの設定です。GitHub Pagesではhttps://username.github.io/repo-name/のようなURLでホスティングされるため、相対パスの解決がローカル環境と異なる場合があります。TypeDocの設定でbasePathを適切に指定しておかないと、CSSやJavaScriptが読み込めない状態になることがあるので気をつけてください。
カスタムドメインを設定している場合は、CNAMEファイルをドキュメントの出力先に含める設定も忘れずに行いましょう。GitHub Actionsのワークフロー内でCNAMEファイルをコピーするステップを追加しておけば、デプロイのたびにカスタムドメインの設定がリセットされてしまう問題を防げます。
実践的なTypeDoc運用のコツ
TypeDocを導入して終わりではなく、継続的に質の高いドキュメントを維持するための運用ノウハウも重要です。ここでは、実際のプロジェクトで培われた実践的なテクニックをいくつか紹介します。
ドキュメントの対象範囲を明確にしておくことが、運用を安定させる秘訣です。すべてのコードをドキュメント化しようとすると、内部実装の変更のたびにコメントの更新が必要になり、メンテナンスの負荷が膨大になります。公開APIに絞ってドキュメント化し、内部実装はexcludeで除外するのが現実的なアプローチです。TypeDocの@internalタグを使えば、ファイル単位ではなく要素単位でドキュメントから除外することも可能です。
コメントの品質を保つために、チーム内でコメントの書き方に関するガイドラインを策定しておくことも有効です。たとえば、「公開関数には必ずJSDocコメントを付ける」「@exampleタグで少なくとも1つのサンプルコードを提供する」といったルールを決めておけば、ドキュメントの質にバラつきが出にくくなります。ESLintのjsdocプラグインを使って、コメントの記述をCIで自動チェックする仕組みも構築できます。
モノレポでのTypeDoc活用
複数のパッケージで構成されたモノレポプロジェクトでは、TypeDocの設定に少し工夫が必要です。各パッケージのドキュメントを個別に生成する方法と、全パッケージを統合した一つのドキュメントを生成する方法のどちらも選択できます。プロジェクトの規模や利用者のニーズに応じて使い分けてください。
統合ドキュメントを生成する場合は、entryPointsに各パッケージのエントリファイルを列挙し、entryPointStrategyを"packages"に設定します。この設定により、パッケージごとにセクションが分かれた見やすいドキュメントが生成されます。パッケージ間の型参照も自動的にリンクされるため、利用者が関連する型をたどりやすくなります。
個別生成の場合は、各パッケージのpackage.jsonにTypeDocのスクリプトを追加して、lernaやturborepoのコマンドで一括実行する方法が効率的です。各パッケージのドキュメントを独立してデプロイできるため、パッケージごとにバージョニングを行いたい場合に適しています。
TypeDocが転職・キャリアに与える影響
技術ドキュメントの整備力は、エンジニアの市場価値を高める重要なスキルです。採用面接でポートフォリオとしてGitHubリポジトリを見せる際、TypeDocで生成された美しいAPIドキュメントが付いているだけで、面接官の印象は大きく変わります。「コードを書けるだけでなく、他の人が使える状態にまで仕上げられる人材だ」という評価につながるのです。
特に、テックリードやシニアエンジニアのポジションでは、チーム全体の生産性を向上させる取り組みが期待されます。TypeDocの導入とCI/CDへの統合は、まさにそうした貢献の典型例です。面接で「ドキュメント自動生成の仕組みを導入して、オンボーディング期間を短縮しました」と具体的に語れれば、リーダーシップの実績として説得力があります。
オープンソースプロジェクトへのコントリビューションでも、ドキュメントの整備は歓迎される貢献の一つです。TypeDocの設定を追加するプルリクエストは、コードの変更に比べてマージされやすい傾向にあります。こうした小さな貢献の積み重ねが、エンジニアコミュニティでの存在感を高め、キャリアの幅を広げてくれるのです。
まとめ
TypeDocは、TypeScriptプロジェクトのドキュメント自動生成において最も信頼できるツールです。インストールから基本的な使い方、JSDocコメントの書き方、テーマのカスタマイズ、CI/CDへの統合まで、一通りの手順を解説してきました。
導入のハードルは非常に低く、npm install typedoc --save-devとnpx typedoc src/index.tsの2コマンドで最初のドキュメントが生成されます。あとは日々のコーディングでJSDocコメントを丁寧に書く習慣をつけるだけで、ドキュメントの充実度は自然と向上していきます。
ドキュメント整備は地道な作業ですが、チームの生産性向上と自分自身のキャリアアップに直結する投資です。ぜひこの記事を参考にして、あなたのプロジェクトにTypeDocを導入してみてください。