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エンジニアのタイピング速度と年収の意外な相関関係

この記事のまとめ

  • タイピング速度と年収には緩やかな相関があるが、速度そのものが評価されているわけではない
  • 年収を左右するのは設計力、問題解決力、コミュニケーション能力などの総合的なスキル
  • タイピング速度は「思考を妨げない水準」まで高めておけば十分で、そこから先は別のスキルに投資すべき

「タイピングが速い人は仕事ができる」という話を、エンジニア仲間との雑談で一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。実際に周囲を見渡してみると、高年収のシニアエンジニアはたしかにキーボードを打つ手が速い印象があります。ただ、それは本当にタイピング速度が年収を引き上げているのか、それとも単に経験が長いから両方とも高いだけなのか、冷静に考えてみるとなかなか判断がつきません。

この記事では、タイピング速度と年収の関係を現役エンジニアの視点から分析します。データに基づいた考察はもちろん、実際の開発現場で何が評価されているのかという本質的な部分にも踏み込んでいきます。タイピング速度を上げることに時間を割くべきか悩んでいる方にとって、キャリア戦略の参考になるはずです。

タイピング速度と年収に相関はあるのか

エンジニアの間で「タイピングが速い人は稼いでいる」という通説があるのは事実です。実はこれ、ある程度のデータ的裏付けがあります。Stack Overflowが毎年実施している開発者調査では、経験年数が長いエンジニアほど年収が高い傾向が明確に出ており、同時に経験年数が長い人ほど日常的にコードを書く量が多く、結果としてタイピング速度も速い傾向にあります。つまり、タイピング速度と年収には「見かけ上の相関」があるものの、それは経験年数という共通の要因が両方に影響を与えているに過ぎません。

そういえば、プログラミングコンテストの世界を見ると面白いことがわかります。競技プログラミングの上位者はタイピング速度が非常に速いことで知られていますが、彼らの年収が必ずしも業界トップかというと、そうとも限りません。競技プログラミングで培われるアルゴリズム力は高く評価される一方で、実務で求められるスキルセットとは必ずしも一致しないからです。このことからも、タイピング速度だけが年収を決めるわけではないことがわかります。

ところで、日本のIT業界の年収データを見てみると、プロジェクトマネージャーやITコンサルタントといった上流工程の職種が年収上位に来ることが多いです。これらの職種はコードを書く量がプログラマーより少ないにもかかわらず、年収は高い。この事実だけでも、タイピング速度=年収という単純な等式が成り立たないことは明らかです。

「タイピングが速い=仕事ができる」は本当か

開発現場を長く見てきた人なら、タイピングが猛烈に速いのにアウトプットの質がいまひとつなエンジニアに出会った経験があるでしょう。逆に、ゆっくり一文字ずつ入力しているように見えるのに、完成したコードの品質が極めて高いベテランも存在します。この差はどこから生まれるのでしょうか。

実は、プログラミングにおいてキーボードを打っている時間は、作業全体のごく一部に過ぎません。あるアメリカの調査によると、エンジニアが1日のうち純粋にコードを書いている時間は全体の20~30%程度で、残りの時間は設計を考えたり、ドキュメントを読んだり、チームメンバーとコミュニケーションをとったりしています。つまり、タイピング速度が2倍になったとしても、全体の生産性が2倍になるわけではないのです。せいぜい10~15%程度の改善にとどまるという計算になります。

そう考えると、タイピング速度を毎分50ワードから100ワードに引き上げる努力よりも、設計スキルを磨いて手戻りを減らすほうが、トータルの生産性向上には効果的だということになります。「速く打てる」ことより「正しいものを打てる」ことのほうが、圧倒的に価値が高いのです。一度書いたコードを何度も修正するのと、じっくり考えてから一発で正しいコードを書くのとでは、最終的な完了速度に大きな差が出ます。

エンジニアの年収を本当に左右するスキルとは

タイピング速度ではなく、実際にエンジニアの年収に大きく影響するスキルについて見ていきましょう。転職市場のデータや求人の傾向を分析すると、高年収のオファーを受け取るエンジニアに共通する能力がいくつか浮かび上がってきます。

設計力とアーキテクチャの知識

年収600万円を超えるあたりから、単にコードが書けるだけでは足りなくなってきます。システム全体を俯瞰して適切なアーキテクチャを選択できる能力が求められるのです。マイクロサービスにすべきかモノリスで十分か、データベースはRDBMSが適切かNoSQLが適切か、こうした判断ができるエンジニアは市場価値が格段に高くなります。

実際の採用面接でも、設計に関する質問は年収レンジが上がるほど増える傾向にあります。「このシステムをスケーラブルにするにはどうしますか」「障害に強い設計とは何ですか」といった問いに対して、実体験に基づいた回答ができるかどうかが、年収の分かれ目になります。タイピング速度がいくら速くても、設計の引き出しが空っぽでは高年収は望めません。

問題解決力とデバッグスキル

障害が発生したとき、原因を素早く特定して修正できるエンジニアは、どの企業でも重宝されます。この能力は年収に直結するスキルの代表格です。なぜなら、サービスが止まっている間は売上が失われ、復旧が1時間遅れるだけで数百万円の損失になることも珍しくないからです。

問題解決力が高いエンジニアは、タイピングが速いから優秀なのではありません。ログの読み方を知っていて、仮説を立てて検証するサイクルが速く、過去の経験から原因の当たりをつけられるから優秀なのです。そういえば、あるベテランエンジニアが「デバッグは刑事ドラマの捜査に似ている」と言っていたのが印象的でした。現場を調べ、証拠を集め、容疑者を絞り込んでいく。この能力はキーボードの速さとは別次元のスキルです。

コミュニケーションと説明力

年収800万円、1000万円と上がっていくにつれて、技術力と同じくらい重視されるのがコミュニケーション能力です。ビジネスサイドの要望を技術的に翻訳できる人、チームをまとめてプロジェクトを前に進められる人は、市場価値が非常に高いのです。

技術的に正しい判断をしていても、それをチームやステークホルダーに伝えられなければ意味がありません。「なぜこのアーキテクチャを選ぶべきなのか」「このリファクタリングにかかるコストと得られるリターンは何か」、こうしたことを非エンジニアにもわかるように説明できる能力は、タイピング速度とは無関係ですが、年収への影響は計り知れないほど大きいです。

タイピング速度はどのレベルまで必要か

とはいえ、タイピング速度がまったく意味がないと言いたいわけではありません。あまりにも遅いと、思考の流れが途切れてしまうのは確かです。頭の中でコードの構造が見えているのに、指が追いつかなくてもどかしい思いをした経験がある方もいるでしょう。

目安としては、英語タイピングで毎分60ワード程度あれば、プログラミングにおいて速度がボトルネックになることはほとんどありません。これは一般的なオフィスワーカーの平均的な速度よりやや速い程度で、日常的にパソコンを使っているエンジニアであれば自然と到達できるレベルです。毎分80ワードを超えてくると「速い」と感じるレベルですが、ここからさらに速くすることの費用対効果は急速に下がっていきます。

実はもっと大切なのは、コードに特化したタイピングの効率です。括弧やセミコロン、アンダースコアといったプログラミングで頻繁に使う記号をスムーズに打てるかどうかは、一般的なタイピング速度とは別の能力です。ショートカットキーやスニペットの活用、エディタのカスタマイズといった工夫のほうが、純粋なタイピング速度よりもコーディング効率への影響が大きいのです。

ところで、Vimを使いこなすエンジニアがタイピングテストでは平凡な速度だったりすることがあります。これは、Vimのモーダル編集がタイピング速度テストの計測方法とは異なる効率性を発揮しているからです。ホームポジションから手を動かさずにテキスト操作ができるため、見かけのタイピング速度以上にコーディングが速いのです。こうした「実効的な入力速度」のほうが、生産性には直結します。

タイピング速度よりも年収アップに効く投資先

タイピング速度を上げる練習に毎日30分を費やすとして、その時間を別のスキル向上に充てたらどうなるか考えてみましょう。キャリアと年収の観点から、より投資効率の高い分野があります。

クラウドとインフラの知識

現在の転職市場で最も年収を押し上げやすいスキルのひとつが、AWSやGCP、Azureといったクラウドプラットフォームの知識です。クラウド関連の認定資格を持っているだけで、年収オファーが50万円から100万円ほど上乗せされるケースも珍しくありません。タイピング速度を毎分10ワード上げるよりも、AWS Solutions Architectの資格を取得するほうが、年収への影響は桁違いに大きいでしょう。

クラウドの知識は単なる資格取得にとどまらず、実務における設計判断にも直結します。コスト最適化やセキュリティ設計、可用性の担保といった判断ができるエンジニアは、どの企業でも引く手あまたです。こうしたスキルを身につけるための学習時間をタイピング練習に使ってしまうのは、率直に言ってもったいないと感じます。

英語力

グローバル企業やGAFAMなどの外資系テック企業は、日系企業と比べて年収水準が大幅に高い傾向にあります。英語でのコミュニケーションが取れるだけで、応募できる求人の幅が格段に広がり、年収レンジも上がります。英語の技術文書をスラスラ読めるようになったり、英語での技術ディスカッションに参加できるようになったりすることの年収インパクトは、タイピング速度の向上とは比較にならないほど大きいです。

そういえば、ある転職エージェントの方から聞いた話ですが、同じスキルセットのエンジニアでも英語力があるだけで提示年収が200万円以上変わることがあるそうです。タイピング練習の時間を英語学習に振り替えるだけで、キャリアの選択肢は劇的に増えるかもしれません。

ドメイン知識と業界理解

技術力が同程度であれば、業界やビジネスへの理解が深いエンジニアのほうが高く評価されます。フィンテック、ヘルスケア、不動産テックなど、特定のドメインに精通しているエンジニアは、そのドメインに関わる企業から引っ張りだこになります。技術だけを追いかけるよりも、自分が携わるサービスのビジネスモデルや市場動向を理解することで、提案力が増し、結果として年収アップにつながるのです。

たとえば金融系のシステムを開発しているなら、金融規制の基本的な知識があるだけで、要件定義の段階からビジネスサイドと対等に議論できるようになります。「技術はわかるけどビジネスがわからないエンジニア」と「技術もビジネスもわかるエンジニア」では、企業が支払う対価に大きな差が出るのは当然のことです。

タイピング速度が活きる場面もある

ここまでタイピング速度の限界について述べてきましたが、速いタイピングが役に立つ場面がまったくないわけではありません。公平を期すために、タイピング速度が実際に生産性を押し上げるケースについても触れておきます。

ペアプログラミングやモブプログラミングの場面では、自分が考えたことを素早くコードに落とし込めることが、セッション全体の効率に影響します。チームメンバーが隣で見ている状態でタイピングがもたつくと、議論の流れが止まってしまうことがあるのです。こうした場面では、ストレスなくタイピングできることが望ましいでしょう。

また、ライブコーディング面接では、限られた時間内にコードを書き上げる必要があるため、タイピング速度が多少は有利に働きます。ただし、面接官が見ているのはタイピングの速さそのものではなく、問題への取り組み方や思考プロセスです。ゆっくりでも正しいアプローチで解いていれば高評価を受けますし、速く打っても見当違いのコードを書いていれば不合格になります。

ドキュメントの作成が多い立場のエンジニアにとっても、タイピング速度はある程度重要です。設計書やテクニカルライティング、コードレビューのコメントなど、文章を書く機会は年次が上がるほど増えていきます。この場合でも、速度よりも内容の質が大切であることに変わりはありませんが、速く打てることで思考と入力のギャップが小さくなり、文章の質も上がりやすくなるのは事実です。

キャリアアップのために本当にやるべきこと

タイピング速度と年収の関係を整理すると、結論はシンプルです。タイピング速度は「思考を妨げない程度」まで上げておけばよく、そこから先の時間と労力は別のスキルに投資したほうがリターンが大きいということです。

年収アップを本気で目指すのであれば、転職市場で何が求められているかを定期的にリサーチすることをおすすめします。求人票を眺めるだけでも、今どんなスキルに高い値段がつけられているかが見えてきます。タイピング速度を求人条件に挙げている企業はほぼ皆無ですが、クラウドの経験やアジャイル開発の実績、特定のフレームワークへの習熟度を求める企業は山ほどあります。

もしあなたのタイピング速度が極端に遅いと自覚しているなら、まずは毎分50~60ワード程度を目指して練習するのは合理的な判断です。そこまで到達したら、あとはタイピング練習よりも技術書を読んだり、個人プロジェクトで新しい技術に触れたり、英語の技術記事を読む習慣をつけたりするほうが、年収アップへの近道になるはずです。キーボードを速く打つことよりも、キーボードの前で何を考えるかのほうがずっと大切なのです。

まとめ

タイピング速度と年収の間には、見かけ上の相関があるものの、因果関係があるとは言い切れません。経験年数という共通の要因が両方に影響を与えているため、相関があるように見えるのです。

エンジニアの年収を本当に左右するのは、設計力、問題解決力、コミュニケーション能力、そしてクラウドやドメイン知識といった総合的なスキルです。タイピング速度は「思考を妨げない水準」を確保できていれば十分であり、それ以上の速度向上に時間を費やすよりも、市場価値の高いスキルに投資するほうが賢い選択といえるでしょう。

キャリアアップや年収アップを真剣に考えているなら、自分の現在のスキルセットと市場の需要を照らし合わせ、最も投資効率の高い分野に時間を振り向けることが重要です。タイピング速度はあくまで道具のひとつに過ぎず、道具の使い方よりも何を作るかが問われているのです。

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