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Vertex AI vs MLflow - クラウドMLプラットフォーム選定ガイド

この記事のまとめ

  • Vertex AIはGoogle Cloudのフルマネージドサービスで、インフラ管理なしにMLワークフローを実行できる
  • MLflowはオープンソースで柔軟性が高く、マルチクラウドやオンプレミス環境にも対応可能
  • プロジェクトの規模・チームのスキルセット・既存インフラとの整合性で選ぶのが最善

機械学習プロジェクトを本格的に進めようとすると、「どのMLプラットフォームを使えばいいのか」という疑問に必ず直面します。特に比較検討の対象として挙がることが多いのが、Google CloudのVertex AIとオープンソースのMLflowです。どちらも実験管理からモデルデプロイまでをカバーする強力なプラットフォームですが、設計思想やコスト構造が大きく異なります。

この記事では、Vertex AIとMLflowのそれぞれの特徴を掘り下げ、どのような状況でどちらを選ぶべきかを具体的に解説します。「とりあえず有名だから」ではなく、自分たちのプロジェクトに本当にフィットするツールを選ぶための判断材料を提供できればと思います。

Vertex AIの特徴と強み

Vertex AIは、Google Cloudが提供する機械学習のフルマネージドプラットフォームです。以前はAI PlatformやAutoML、ML Engineなど複数のサービスに分散していた機能が、Vertex AIというひとつの傘の下に統合されました。この統合により、データの準備からモデルの学習、デプロイ、モニタリングまでをシームレスに行える環境が整っています。

Vertex AIの最大の魅力は、インフラの管理をほぼすべてGoogle Cloudに任せられることです。GPUやTPUのプロビジョニング、分散学習の設定、オートスケーリングの構成といった面倒な作業をプラットフォームが自動的に処理してくれるため、データサイエンティストはモデルの開発に集中できます。特にTPU(Tensor Processing Unit)はGoogleが独自に開発したAI専用チップで、他のクラウドプロバイダーでは利用できないユニークな計算リソースです。

もうひとつの大きな強みは、BigQueryやDataflowなどのGoogle Cloudサービスとの深い統合です。BigQueryに蓄積された大量のデータを直接Vertex AIの学習ジョブに流し込めるため、データの移動に伴うコストや時間を大幅に削減できます。Google Cloudをメインのクラウド基盤として使っている組織にとって、この統合はVertex AIを選ぶ非常に強い理由になるでしょう。

Vertex AI Pipelinesの実力

Vertex AI Pipelinesは、Kubeflow PipelinesのマネージドバージョンとしてGoogleが提供しているサービスです。Kubeflow Pipelines SDKやTFX(TensorFlow Extended)でパイプラインを定義し、Vertex AI上で実行できます。自分でKubernetesクラスターを管理する必要がないため、インフラの運用負荷を大幅に軽減できるのが特徴です。

パイプラインの実行環境はGoogleが管理してくれるため、コンピュートリソースの確保やスケーリングを気にする必要がありません。パイプラインの各ステップで必要なリソースを指定するだけで、Vertex AIが適切なマシンを割り当ててくれます。大規模なデータ処理を含むパイプラインでも、リソースの確保に頭を悩ませることなく実行できるのは大きなメリットです。

ただし、Vertex AI Pipelinesの柔軟性にはある程度の制約があります。Google Cloud以外のサービスとの連携が必要な場合や、特殊なインフラ構成が求められる場合には、マネージドサービスの制約がボトルネックになることもあります。この点は、後述するMLflowとの重要な比較ポイントになります。

Feature StoreとModel Monitoring

Vertex AIには、Feature StoreやModel Monitoringといった付加機能も充実しています。Feature Storeは特徴量を一元管理するための仕組みで、学習時と推論時で同じ特徴量を一貫して利用できるように設計されています。特徴量の不一致による推論精度の低下を防ぐことができるため、本番環境での安定したモデル運用に大きく貢献します。

Model Monitoringは、デプロイ済みモデルの性能を継続的に監視する機能です。データの分布の変化(データドリフト)やモデルの予測精度の劣化を自動的に検知してアラートを出してくれるため、問題が大きくなる前に対処できます。モデルの精度が気づかないうちに低下していた、という事態を防ぐための仕組みとして、本番運用では非常に重要な機能です。

これらの機能はVertex AIにネイティブに組み込まれているため、追加のツールを導入したり設定したりする手間がかかりません。プラットフォームの中で一貫したワークフローを構築できる点は、フルマネージドサービスならではの利点です。

MLflowの特徴と強み

MLflowはDatabricksが開発をリードするオープンソースの機械学習プラットフォームで、実験管理を中心としたMLOpsの基盤を提供しています。Apache 2.0ライセンスで公開されており、誰でも自由に利用・修正・配布が可能です。この開放性がMLflowの根本的な強みであり、世界中のデータサイエンティストやMLエンジニアから広く支持される理由となっています。

MLflowの設計哲学は「既存のツールを置き換えるのではなく、補完する」という考え方にあります。特定のフレームワークやクラウドプロバイダーに依存せず、scikit-learn、PyTorch、TensorFlowなどあらゆるMLフレームワークと組み合わせて使えるよう設計されています。この中立性のおかげで、プロジェクトの途中でフレームワークを変更したい場合でも、実験管理の基盤はそのまま維持できます。

インフラの選択肢が幅広い点もMLflowの魅力です。ローカルマシン、オンプレミスのサーバー、AWS、GCP、Azureのいずれの環境でも動作するため、組織のインフラ戦略に合わせた柔軟なデプロイが可能です。マルチクラウド戦略を採用している企業や、オンプレミスとクラウドのハイブリッド環境を運用している企業にとって、この柔軟性は非常に価値があります。

コミュニティとエコシステムの充実度

MLflowは2018年の初リリース以来、急速にコミュニティが拡大してきました。GitHubでのスター数は数万に上り、活発な開発が続いています。質問やトラブルに対する情報がオンライン上に豊富にあるため、問題に直面したときも自力で解決しやすい環境が整っています。

エコシステムとしての成熟度も見逃せないポイントです。MLflowはOptunaやRayといった他のMLOpsツールとの連携プラグインが充実しており、パイプラインの一部としてMLflowを組み込むような使い方も容易です。DatabricksはMLflowの商用サポートを提供しており、マネージド版のMLflowを利用すれば、セットアップの手間を省きながらもオープンソースの柔軟性を享受できます。

ところで、MLflowの学習コストはVertex AIと比較して低い傾向にあります。Pythonの基本的な知識があれば、数時間でMLflow Trackingの基本的な使い方を習得できるでしょう。この低い参入障壁は、チームへの導入をスムーズに進める上で大きなアドバンテージです。

MLflowのセルフホスティングという選択肢

MLflowを自前のインフラで運用するセルフホスティングは、データのプライバシーやセキュリティに厳しい要件がある組織にとって魅力的な選択肢です。実験データやモデルのアーティファクトが自社の管理下に置かれるため、外部サービスにデータを預けることに対する懸念を解消できます。

セルフホスティングの構成としては、MLflowのTracking Serverをコンテナ化してKubernetesやECS上にデプロイし、バックエンドにPostgreSQL、アーティファクトストレージにS3やGCSを使うのが一般的です。この構成であれば、数十人規模のチームでも十分に対応できるパフォーマンスを確保できます。

ただし、セルフホスティングにはインフラの運用負荷が伴います。サーバーの可用性確保、データベースのバックアップ、セキュリティパッチの適用など、継続的な運用作業が必要です。運用リソースに余裕がない場合は、Databricksのマネージド版MLflowや他のSaaSサービスの利用も検討してみてください。

機能面での比較

Vertex AIとMLflowの機能を具体的な項目ごとに比較していきましょう。どちらが優れているという単純な答えではなく、それぞれの強みを理解した上で、自分たちのプロジェクトに合った選択をすることが重要です。

実験管理の分野では、両者ともにパラメータ、メトリクス、アーティファクトの記録と可視化に対応しています。MLflowはUIのシンプルさと直感的な操作性に優れており、小〜中規模のプロジェクトでは非常に使いやすいです。Vertex AIのExperimentsは、Google Cloudの他サービスとの統合が深く、BigQueryのデータ分析やVertex AI Vizierとの連携で高度な実験管理が行えます。

モデルのデプロイに関しては、Vertex AIが優位性を持つ場面が多いです。エンドポイントの作成、トラフィック分割、A/Bテストといった本番運用に必要な機能がネイティブに組み込まれており、数クリックでモデルをサービングできます。MLflowもモデルのパッケージングとデプロイに対応していますが、本番グレードの推論基盤を構築するには追加のインフラ設定が必要になることが多いです。

コスト構造の違い

コスト面での比較は、プラットフォーム選定において見落とされがちですが、長期的な運用を考えると非常に重要な要素です。Vertex AIは従量課金制で、学習ジョブの実行時間やデプロイしたエンドポイントのリクエスト数に応じて課金されます。大規模な学習ジョブやリアルタイム推論を頻繁に行う場合、コストが予想以上に膨らむことがあるため、事前の見積もりが欠かせません。

MLflowのソフトウェア自体はオープンソースなので無料です。ただし、セルフホスティングの場合はサーバーやストレージのインフラコストが発生します。Databricksのマネージド版を使う場合は、Databricksの利用料金にMLflowの費用が含まれる形になります。小規模なプロジェクトであれば、ローカル環境でMLflowを無料で使い始められるのは大きなメリットでしょう。

実は、コスト比較で最も見落とされやすいのが運用コスト(人件費)です。Vertex AIはマネージドサービスのためインフラ運用の人件費が抑えられますが、MLflowのセルフホスティングではサーバー管理のための工数が必要になります。チーム内のインフラスキルとリソースの余裕度を加味して、総合的なコストを評価することをおすすめします。

スケーラビリティと柔軟性のトレードオフ

Vertex AIはGoogle Cloudのインフラを背景にしたスケーラビリティが魅力で、数テラバイト規模のデータセットの処理や大規模な分散学習にも対応できます。一方、Google Cloud以外の環境での利用は想定されていないため、プラットフォームロックインのリスクがあります。将来的にクラウドプロバイダーを変更する可能性がある場合は、この点を慎重に考慮する必要があります。

MLflowは特定のクラウドに縛られない柔軟性がありますが、大規模な分散学習や自動スケーリングといった機能は標準では提供されていません。これらの機能が必要な場合は、SparkやRayなどの分散処理フレームワークとの組み合わせで実現することになります。このカスタマイズの自由度は長所でもありますが、構築と運用には相応のスキルが求められます。

このスケーラビリティと柔軟性のトレードオフは、プラットフォーム選定における最も本質的な判断ポイントです。Google Cloudに集中投資する戦略であればVertex AIの方が合理的ですし、マルチクラウドやハイブリッド戦略を取る場合はMLflowの方が適しています。

プロジェクト別の選定ガイドライン

ここまでの比較を踏まえて、プロジェクトの特徴に応じた選定の指針を整理しましょう。大切なのは、ツールの機能だけでなく、チームの状況やビジネスの文脈も含めた総合的な判断です。

スタートアップや個人プロジェクトで、まず機械学習の実験管理を始めたいという場合は、MLflowから始めるのがおすすめです。無料で始められ、学習コストも低く、プロジェクトの成長に合わせて徐々に機能を拡張していけます。Google Cloudの無料枠を使ってVertex AIを試してみるのも悪くありませんが、本格的に使い始めると従量課金が発生する点には注意が必要です。

すでにGoogle Cloudを中心にインフラを構築している中〜大規模な組織であれば、Vertex AIが自然な選択です。BigQueryやDataflowとのシームレスな統合により、データ基盤からMLパイプラインまでを一貫して管理できます。インフラ運用の負担もGoogleに委ねられるため、MLエンジニアのリソースをモデル開発に集中させることができるでしょう。

マルチクラウド環境や厳格なデータガバナンス要件がある場合は、MLflowのセルフホスティングが最適解となることが多いです。金融機関や医療機関など、データの所在地や管理に厳しい規制がある業界では、自社インフラ内でMLプラットフォームを完結させる必要があるためです。

まとめ

Vertex AIとMLflowは、それぞれ異なる設計思想とメリットを持つMLプラットフォームです。Vertex AIはGoogle Cloudのフルマネージドサービスとして手厚いサポートとスケーラビリティを提供し、MLflowはオープンソースの柔軟性とベンダー非依存性を強みとしています。

プラットフォームの選定で後悔しないためには、現在のプロジェクト規模だけでなく、将来のスケールアップ計画やチームのスキルセット、既存のインフラとの整合性を総合的に考慮することが大切です。「正解」はプロジェクトごとに異なりますので、この記事の比較ポイントを参考に、自分たちにとっての最適解を見つけてください。

どちらを選ぶにしても、MLプラットフォームの選定と運用の経験はMLOpsエンジニアとしてのキャリアに直結するスキルです。実際に手を動かして両方のツールを試してみることで、より深い理解と的確な判断力が身につくはずです。

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